近頃は宇宙旅行に民間人が行くなどというニュースも聞くようになりました。
ちょっと前までなら考えられなかったですよね。
しかし、宇宙旅行に行くと脳に永続的な影響があるという論文が最近発表されました。
以前も人間が宇宙に行くことで起きる身体の異変について紹介しましたが、今回の報告はそれについてもっとも包括的なもののひとつとされています。
半年の宇宙滞在で脳に影響?
このほど、宇宙に半年滞在した人が地球に帰ると、脳の組織が一部減少し、7ヵ月後も戻らなかったというニュースがありました。
人間はこれまで、地球の重力で働けるように進化してきました。そのため無重力の宇宙船にいる場合、身体は普段と同じように機能しません。体液が体の上部に上ったりDNAの働きまで変化するために、宇宙旅行は地上でいたって健康な人でも過酷な経験になるでしょう。
また、新しい研究から宇宙にしばらく滞在していた宇宙飛行士の体には、臓器に影響が見られるという報告があります。その中で最も重要な問題のひとつが「脳」です。無重力状態に長期の間いることで、脳に悪い影響が残るかもしれないことが明らかになりました。
これまでも、宇宙での微小重力状態が人間の身体に影響を与えるということは知られていましたが、今回の研究は長期宇宙滞在から帰還した後の脳の状態を報告したものとして、最も大きなものの1つです。
2018年10月の「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン」に掲載された論文では、約半年におよぶISS・国際宇宙ステーションの滞在で、宇宙飛行士たちにどのような影響があったかが報告されました。
ベルギーのアントワープ大学の研究チームは、男性宇宙飛行士10人のミッション前・後の脳を、MRI「核磁気共鳴画像法」で撮影しました。
宇宙に滞在していると、脳の「脳脊髄液」が増えると考えられています。「脳脊髄液」とは透明の液体で、人が動いたり衝撃を受けたときに「脳のクッション」の役割をしていて、脳圧を保つ働きも持っています。
この論文を書いた教授は「人間は重力の下で生活するようにできていて、無重力では体の液体は頭の方に移動していきます」と語ります。
論文では、宇宙から地球に帰った直後、脳の神経細胞の細胞体が集中する組織「灰白質」が最大3.3%減少していたそうとしています。
これは宇宙で脳脊髄液が圧迫していたのが原因とされています。その減った分はしばらくして回復しましたが、数カ月後は別の場所にある灰白質が減っていたそうです。そのため、灰白質全体は合計1.2%くらい減っていたそうです。
主に神経線維からできている脳の「白質」は、宇宙に滞在する前後でも変化がないかのように見えましたが、地球に戻り数カ月後では、この体積も減っていたことが判明しました。
これらはやはり脳脊髄液が原因とされます。地上に帰って約7カ月しても、脳脊髄液は増えたままになっているので、その影響からではないかと考えられています。
「視覚障害脳圧症候群」解明へのカギかも?
「このような変化はISS・国際宇宙ステーションから地球に帰ってきた宇宙飛行士たちが経験する症状を説明することになるかもしれません。これは火星有人飛行等の、長期的宇宙探索計画で大きい問題となる可能性があります」と、アメリカのサウスカロライナ医科大学の関係者は語ります。
特に、宇宙飛行士が地球帰還後よく発症する「視覚障害脳圧症候群」という目の症状を解明するカギになるかもしれないとされています。
視覚障害脳圧症候群とは、宇宙飛行士が地球に帰還した後で、視神経円板の膨張・頭蓋内の圧力の上昇にともない視力が低下してしまうという症状です。
現在のところ、詳しい原因は不明ですが、この研究でも症状がみられた宇宙飛行士3人の全員が中心溝の狭まりを起こしていました。そのうちの1人は脳撮像で脳が上方へ移動していることが確認されています。
研究者は、脳が上方に移動していることとそれにあわせた脳上部組織の圧迫が脳脊髄液を妨げて頭蓋内圧力が上がり、視神経がふくらむのではないかと考えています。
長期間の宇宙滞在で脳はどうなるのか?
宇宙の長期滞在、宇宙旅行での脳への影響についてでした。
わずかな宇宙滞在ならまだしも、長期滞在によって出てくる影響というのもあるかもしれませんので、まだ研究の必要があるようです。