広告 惑星状星雲

美しき惑星状星雲。その正体と太陽の死後はどうなるの?

2017年2月25日

(惑星状星雲 wikipedia)

 

惑星状星雲のファーストインパクトは、色が混ざり合っていて、星とは違ってクリアではなく、淡く美しく、幻想的・・そんな抽象的なイメージを持たれる方が多いのではないでしょうか。肉眼ではなかなか観測が難しい惑星状星雲。実はこれ、星の“死骸”なのです。ある条件の星が長い一生を終えた死後、このような形状となって一時的に宇宙に存在している姿なのです。今回は、この惑星状星雲について一歩踏み込んでみたいと思います。

 

なぜ“惑星状星雲”?その名の由来

 

惑星状星雲は、望遠鏡でやっと観測できるものなのですが、その形状は地球や木星などのような惑星と似ても似つかず、鮮明な形をキープしているようには見えません。それでも“惑星状”と呼ばれるのはなぜでしょうか。

 

(ウィリアム・ハーシェル wikipedia)

 

名付け親はウィリアム・ハーシェルです。天体好きならご存知でしょうが、イギリス人の天文学者であり、18世紀後半には天王星を発見するなど天文学史上の偉業を成し遂げた人物です。当時彼は、自宅の庭に長さ6mにもなる巨大な望遠鏡を設置し、毎日天体観測をしていたそうです。あるとき水瓶座の方向に淡い天体を発見しました。それは、彼がそれ以前に発見していた惑星・天王星と見た目がそっくりで、淡く青白く、ぼんやり光って見えました。ハーシェルはその印象から、まるで惑星のようだということで、“惑星状星雲”という名前をつけたのだそうです。

生前彼は16個の惑星状星雲を発見することになるのですが、残念ながら、当時の倍率ではハーシェルが生きているうちにその惑星状星雲の正体を突き止めることはできませんでした。

 

分光器を使って惑星状星雲の特徴を導き出す

(ウィリアム・ハギンズ wikipedia) 

 

19世紀になると、イギリスの天文学者ウィリアム・ハギンズは、分光器を使った実験で光を波長ごとに分けることで、惑星状星雲の観測を行いました。

ここで話を続ける前に、分光器について触れようと思います。私たちが知っている光は、実はいくつかの光の波長が合わさっているものです。その波長を個々に分解するための装置が分光器と呼ばれます。太陽などの恒星の場合、その光を分光器に通すと、その波長の長さによって色が分かれ、まるで虹色のようにきれいに分光されます。さて、話をウィリアム・ハギンズに戻します。彼は分光器で惑星状星雲を観測したときに、太陽などの恒星とは異なる光の観測結果を得たのです。太陽などの恒星の光は前述の通り虹色のようにカラーが連続している様子を確認することができたのですが、惑星状星雲の観測結果は、太陽のそれとは全く違うものでした。彼はそれを“まるでモノクロだった”という表現をしていますが、赤と水色の細い光の線がまばらにある、といった観測結果でした。

 

 

惑星状星雲が放つ光の正体とは?

(惑星状星雲 wikipedia)

 

分光器で検出された結果は、輝線スペクトルでした。輝線スペクトルというのは原子の中のマイナス電子がエネルギーの高い状態から元の場所に戻ろうとしたときに発せられる光のエネルギーのことです。この輝線スペクトルのカラーによって原子の色が区別され、原子の種類もわかります。惑星状星雲の分光器の観測の結果によると、水素と酸素の原子の存在が検出されたのでした。では、なぜ水素や酸素の光が放たれたか、というところに触れたいと思います。

水素や酸素は単体では光りません。“あるエネルギー”がその原子にぶつかることによって、原子のマイナス電子が最外殻(電子が存在する軌道の一番外側)に移動し、移動した状態だと原子としてい続けるのが不安定なめ、元の位置に戻ろうとします。この時に光のエネルギーが発せられます。そしてその光の色を通してその原子の種類もわかる、ということです。では、ガスを光らせた“あるエネルギー”とは何かということですが、それは、元恒星の白色矮性(はくしょくわいせい)が放った紫外線だったのです。

 

 

白色矮性ができるまで、そして惑星状星雲とは?

(赤色巨星 wikipedia) 

 

太陽くらいの大きさの恒星がその一生を終える時に、膨張と収縮を繰り返しながらガスを大量に放出しつつ、巨大な赤い星・赤色巨星になります。その後、それが短期間で一気に縮み、色は青白く、元々の恒星の大きさよりもずっと小さくなります。これが白色矮星です。白色矮星は、紫外線を放ち、自らが放った大量の水素や酸素のガスを自らの光で照らします。これが惑星状星雲として私たち人間の目で(望遠鏡を使って)確認することができるのです。惑星状星雲の中心部分をよくよく見ると、青白い小さな星が見えます。これが最後の灯火(ともしび)とも言える紫外線を発する白色矮星です。ちなみに、今回テーマにしている惑星状星雲とは別に、赤色巨星から超新星爆発によって星の一生を終える恒星もあります。それは、太陽の約8倍以上の大きな恒星だと言われています。この場合、星の内部では重い原子まで核融合を起こしてその後一気に爆発するので、爆発後に漂うガスの中には鉄やカルシウムなどの重い原子のガスも含まれています。ですから、惑星状星雲と超新星爆発の違いは、その星の死の残骸を観測すればわかる、ということになるのです。さて、ここにきてようやく結論が出ました。惑星状星雲とは、その死ぬ間際の恒星が自ら放った水素や酸素のガスを、死後の白色矮星が放つ紫外線で照らした姿、だったのです。

 

 

太陽が惑星状星雲になり…その時地球の運命は?

 

太陽の寿命は約100億年と言われており、太陽系は約46億年前に誕生したということですので、あと約50数億年もすると太陽は寿命を迎え、惑星状星雲になるということです。つまりその時太陽は赤色巨星になるのですから、大きく膨張するわけです。研究者によると、太陽は地球の軌道あたりまで膨張するという予測もあるのです。そうなると気になるのはやはり私たちの地球です。まだまだ先の話ですが、これについては研究者の間でも諸説あるようです。

 

1つは、赤色巨星になった太陽は、今よりもずっと重力が弱くなるので、そもそも地球の起動が外側にずれ、地球は太陽から逃げるように助かるのではないか、という説です。もう1つは赤色巨星それ自体との距離よりも、放出する大量のガスとの摩擦でエネルギーを失った地球が太陽に飲み込まれてしまうのではないか、という説です。

 

筆者としては…どんなに楽天的に考えて、地球という単体自体に存続の影響がないにせよ、そこで暮らす生命体には何かしらの影響があるような予感はしています。抽象的な表現ですが…。

 

 

惑星状星雲の形について

 (惑星状星雲 wikipedia)

 

さて、惑星状星雲は、肉眼で観測することはできないくらい淡く目立たない星雲なのですが、現代の天文技術力の向上により、今では3,000個もの惑星状星雲が望遠鏡で観測されています。その形状がユニークなことからバタフライ星雲、キャッツアイ星雲、らせん星雲などと呼ばれ、美しく幻想的な姿で私たちを楽しませてくれます。 アフリカ大陸北西部に浮かぶカナリア諸島の天文台のロマノ・コラーディ博士は、惑星状星雲研究の第一人者で、これまで数百の惑星状星雲を発見してきました。博士は、その形に注目し、円形の惑星状星雲と、それ以外のものを調査したところ、円形の惑星状星雲は少数派で、発見された惑星状星雲のほとんどが双極性と呼ばれる、真ん中の境に両側にほぼ対照に広がるような形をしているということがわかりました。わかりやすい例を挙げると、バタフライ星雲や砂時計星雲、ブーメラン星雲などがあります。惑星状星雲が双極性になる理由については、アメリカのロチェスター大学のアダム・フランク教授がその理由を説いています。その恒星が元々連星(双子星とも呼ばれる)の場合には、重い星と軽い星のペアが相互作用して双極性の惑星状星雲を形作っているのではないか、ということです。重い星の方が先に赤色巨星となり、軽い星がそれに影響されるように周りを回転して磁場を作り、その磁場の方向によって双極に形成される、ということです。

 

 

太陽が惑星状星雲になった時、どんな形になる!?

 (惑星状星雲 wikipedia)

 

太陽は連星ではありません。ということはこれまでの節から考えると、太陽は双極性ではなく、円形の惑星状星雲になるのではないか、と単純に予想することができます。しかし、研究者の中では、太陽は赤色巨星になろうとする初期の段階でそのガスを出し尽くしてしまうのではないか、という予想もされています。つまり一般的に最後にガスを放出し、赤色巨星から白色矮性になる頃には、太陽には円形の輪を作るほどのガスの量は残っていないのではないか、ということらしいです。太陽は、私たちが普通に認識しているあの美しい惑星状星雲の形はならないのかもしれません。そういう説もあるようです。

 

 

惑星状星雲のその後

 

太陽くらいの大きさの恒星が死を迎え、惑星状星雲として輝き続ける時間には限りがあります。恒星自らが放ったガスに紫外線を放つ白色矮星は、その光を永遠に放ち続けることはなく、エネルギーを使い尽くして冷え切り、黒色矮星(こくしょくわいせい)と呼ばれる物質に変わると言われています。でも実際今の段階で黒色矮星そのものは発見されていません。ビックバンから138億年経過した今、黒色矮星になるほど冷えきる時間を経過した白色矮星は見つかっていないとされています。

 

 

最後に…

 

惑星状星雲は恒星の死後の状態だということがわかりました。私たちにとって最も身近な恒星・太陽もいずれはそうなるだろうと言われています。天文ファンからすると、そうなった時に実際にはどうなるのだろう?!という好奇心が強い中、かたや人類などの生命体が(その時に存在していたとして)どのような状態でそれを待ち受け、どのように対応するだろうか、というところにも強い興味を惹かれます。もしかしたら別の星に移住し、太陽の死をライブ映像で眺めているのかもしれません。これから先も多くの高性能の望遠鏡が、淡く美しく幻想的な惑星状星雲を見つけ、私たちにその存在を届けてくれることを期待しています。そして、私たちの地球に最も影響のある太陽がどのような生涯を送り、どのような死を迎えるのかも天文ファンの目線でこれからも関心を寄せていきたいと思います。

 

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