火星

火星探査計画が追う、火星の生命の可能性

2018年3月17日

 

火星に水や氷があるのかといった議論と同じように、

火星に生命はいる/いたのかという議論も昔からあります。

よくフィクションなどの作品には「火星人」なども登場することがありますよね?

 

もちろん、現在のところは実際に火星に生命がいる/いたという事実は判明していません。

ただ、生命が生きることができる環境のがあった可能性というものはいくつか出ているので、

ここでそれらについて紹介してみましょう。

 

「バイキング計画」の成果は?

 

火星に生命が存在しているのか、またはかつて存在したことがあるのかということは、

すべての火星探査計画が追っている謎です。

 

60年代というのはもちろん宇宙開発華やかりし時代ですが、

1965年に初の火星表面を捉えた探査機「マリナー4号」が撮った画像は、

火星は海も川もない乾燥した土地でした。

さらに火星の表面にはクレーターがあり、

この存在が40億年間、火星にはプレートテクニクス・風化がなかったことを示しました。

 

さらに火星には宇宙船から生き物を守る磁気圏もなく、

大気圧は地球の150分の1以下の約0.6kPaであり、地表には水が存在しないことが明らかになりました。

このマリナー4号の観測後は、火星の環境というものが想像よりもかなり厳しいことが判明したので、

火星の生物探しは多細胞生物から微生物へと対象が変わっていきました。

 

1970年代の中頃には「バイキング計画」というものがありました。

この計画の主な目的は、探査機「バイキング」1号・2号を火星に着陸させ、

火星の土の中の微生物を探す実験でした。

 

バイイング計画では4つの実験が行われましたが、

実験を計画した1人のギルバート・レヴィンは、

この実験結果は火星に生命がいることの確定的なデータだと信じていました。

しかし、土の中の活性酸素により生物がいなくても同様なことが

起こるのではないかと考える多くの科学者にから異議を唱えられました。

 

また、実験の分析計は天然有機物の検出のために設計されたものであり、

有機分子用のものではなかったので、このデータは火星の生命の証拠になることはありませんでした。

ということで、火星の生命についてのバイキング計画の実験結果は、

専門家たちからは決定的ではないという評価になってしまいました。

 

しかし2007年、カーネギー研究所のセミナーにおいて、

ギルバート・レヴィンらが行った実験の再評価がされました。

彼はこのデータが正しいと信じ続けていて、対照実験も整えていました。

 

土壌学者ロナルド・ペプは「欧州地球科学連合会議」において、

近ごろ火星の土から「ケイ酸塩鉱物」が見つかり、

これは火星の表面で土壌生成がされている証拠という発表をしました。

この説は、何十億年に渡って火星の表面には水が存在し、

植生・微生物が存在したことを示唆していたのです。

 

ラファエル・ゴンザレスが主任のソーク研究所のチームは、

バイキング計画によって有機分子探査に使われた分析計は、

生物の痕跡を探すために十分な感度がなかったという結論をつけました。

ゴンザレスたちは、将来の探査では別の検出手法も採用するべきだと主張しています。

 

NASAのゴダード宇宙飛行センターの主任、ジェームズ・ガービンは

「バイキング計画以来は、高い科学技術を取り入れて火星探査が行われてきました。

火星の気候変動、過去にいた生命の可能性についての調査が現在でも進められています。

火星で生き物が暮らせるかということも、大きい研究テーマです」と話しています。

 

同氏が注目するのは、近頃発見された有機分子や、

大気中に少量含まれているメタンガス量の変動です。

火星の地質的な変化に堆積過程が関わっている形跡があって、

水が大きな役割を果たしている可能性が推測されています。

 

過去の火星に生命がいた痕跡

 

火星から地球に来たの隕石に沈着している物体が、

火星の生物の痕跡の証明かどうかの解釈については生物学者たちの関心となっていました。

NASAには最低でも57個の「火星隕石カタログ」があり、

入手が可能なただひとつの火星の物理的サンプルとしてとても貴重です。

 

研究によって、最低でも3個には過去の火星に生命がいたことの痕跡が認められており、

火星に生命が存在したという推測が大きくなりました。

 

この、最低3個は隕石に火星の生命の痕跡があったということはご存知でしたか?

かなりすごいことのように思うのですが、一般的にはあまり知られていませんよね。

 

この科学的事実は確かに信頼できるものですが、解釈については様々です。

 

これまでに誤解を招くような報道などはたくさんもありましたが、

科学的な事実に決定的な誤りがあったたことは一度もありません。

過去の数十年間において、有機的な生物指標化合物の存在や細胞のコロニーの証拠といった、

地質学的なサンプルに生物の痕跡を認めるための7つの基準が確立されました。

 

 

生命の痕跡が残る3つの隕石

 

その7つの基準をクリアーしたという3つの隕石についてご紹介しましょう。

 

1984年12月の南極大陸。南極隕石探査のメンバーが発見した、

重さ1.93kgの隕石が「アラン・ヒルズ84001」です。

この隕石は約1700万年前に火星から出て、1万1000年前の南極に落下したとされています。

 

NASAの成分分析で、ある生物活動でしか生成しないという、

地球のものと似た磁鉄鉱を発見しました。

1996年、ジョンソン宇宙センターは、火星のこの隕石に生命の証拠があると発表しました。

 

2002年8月にはNASAの別チームによって、「アラン・ヒルズ84001」の磁鉄鉱の25%は、

単一の小さい結晶からできている、

生物活動により生まれた可能性が高いという研究データを報告しました。

 

抽出手法のために、

期待されていたように磁鉄鉱が鎖状に生まれたかといったことは分かりませんでした。

 

磁鉄鉱は水の中でやや低温の二次鉱化をしたことが見られ、液体の水も存在したことになります。

 

「多環芳香族炭化水素」の存在も同定され、表面に遠いほどその割合が多くなることも判明しました。

 

このうちいくつかの構造は、地球の細菌に線維、副生成物から生成する鉱物と似ています。

大きさ・形は地球の化石にもあるナノバクテリアとも一致していますが、

ナノバクテリアという存在には論争があります。

 

1911年の6月28日、

火星からエジプトのアレキサンドリアに落ちてきたというのが「ナクラ隕石」です。

 

1998年にジョンソン宇宙センターはその少量のサンプルを手に入れ分析し、

大きさ・形が地球にあるナノバクテリアの化石と同じ水変性の跡があることを見つけました。

2000年には、測定によって高分子の多環芳香族炭化水素も発見し、

NASAはこの「ナクラ隕石」の有機化合物の約75%は地球で、

コンタミネーション(科学実験場の汚染)したものではないと判断しました。

 

この発見から、この「ナクラ隕石」の興味が増加し、

2006年にはNASAがロンドン自然史博物館から大きいサンプルをもらい受けました。

このサンプルからは大きな樹枝状の炭素も発見されています。

2006年にこれが発表されると、外部の研究者から、

「この炭素は生物由来である」といった指摘を受けたものの、

NASAは炭素というのは宇宙で4番目に多い元素で、

奇妙なパターンでも生物由来ということを示唆とはかぎらないという見解を述べました。

 

1865年8月25日にインドのシェルガティに落下した重さ4kgの隕石が「シャーゴッティ隕石」です。

この隕石はやや若く、今から約1億6500万年前の火山の噴火から生成したものと考えられています。

 

大部分が輝石からできていて、何世紀もの水変性を受けたとされています。

内部は生物膜・微生物群集の痕跡があるということで現在も研究が続けられています。

 

 

火星の生命を探すため、水の痕跡も

 

生命が誕生するためには液体の水が必要ということはお馴染みのことですね。

 

アリゾナ州のツーソンにある惑星科学研究所の研究員ウィリアム・ハートマン氏は、

火星の水について、特に過去の数百万年の水の変遷に、

その水が火星の気候に与えた影響を調べることが重要だと語ります。

 

「過去の火星の水の様子に現在水が果たしている役割、

今水・氷が火星にあるかどうかを調べるため、

地中ではどのような過程があるのかを考えないといけないでしょう。

火星の地下には大量の氷があることはバイキング号の頃から知られています」

 

火星のレゴリス(固体の岩石の表面をおおう軟らかい堆積層)

を初めて調査したのは上記のバイキングです。

最近では火星の表面に湖・海等の液体の水があったのかについてが研究されています。

 

それにより、火星には水の存在により形成される「赤鉄鉱」が発見されています。

科学者の多くは、これを火星の地形に基づいた明らかな証拠としましたが、

風によっての浸食・酸素の海等、ほかの説明をする者もいました。

 

2004年1月に欧州宇宙機関のESAはマーズ・エクスプレスにより、

火星の南極近くで大量の氷が蓄積されていることを発見。2004年3月に、

NASAは探査機の「オポチュニティ」が、

過去の火星は「濡れた惑星」であった証拠を見つけたと発表しました。

この発見で、過去の火星に生命が存在していたという希望が生まれました。

 

2005年7月では、ESAが火星の北極近くで地表面の氷を撮影したと発表しました。

2006年にNASAの「マーズ・リコネッサンス・オービター」が火星に到着、

高解像度カメラの「HiRISE」と小型観測撮像スぺクトロメーターの分光計が、

火星の表面に水が流れているという大発見をしました。

 

研究員はこの水を「塩水」と考えています。

塩は水の凍結温度を下げるのであれば、温度が低い地下に染み込んでも、

塩のために水が凍ることなく、液体のままで斜面を下っていくことができます。

火星の地表近くでは、つかの間湿り気ほどの水が存在するものの、

過塩素酸塩を含む水は、少なくとも地球上の生物は生存できないだろうとしています。

 

2006年の12月、NASAは、火星表面で過去に洪水があったことを示す、

「マーズ・グローバル・サーベイヤー」から送られた写真を公開しました。

 

写真は水自体を直接映していませんが、クレーター・堆積物が変化して、

ほんの数年前まで水が流れていた、あるいは現在もあるかもしれないということを示す、

今までに最も有力な証拠になりました。

 

ただ、水が原因で地形が変化したという説に首をかしげる科学者もいて、

砂・泥等の別の物質の流れによっても似たような地形ができると主張する人もいます。

 

最近の軌道上にある望遠鏡からのデータを使った、火星の砂岩分析により、

かつては火星の表面にあったという水は「塩分」が高いので、

地球のような生命はできないということが示唆されました。

 

研究者は火星の水は水分活性aw ≦ 0.78 - 0.86で、

地球の生命ならほとんどが死ぬくらいのレベルということを示しましたが、

「高度好塩菌」なら、飽和点に至るまでの高い濃度の塩分溶液の中でも生きられるということです。

 

2008年の5月に火星の北極に着陸した探査機フェニックスが、

地表面付近の氷の存在を発見。

掘削アームに着いた明るい物質が3〜4日で蒸発して無くなったために確認されました。

掘削により露出した付近の氷が、大気に露出したことで昇華したためとされています。

 

火星に多数ある地下の帯水層が互いにつながっていたのかどうかが、

大きいポイントになるかもしれません。

惑星の進化により移動していく地熱地域を、

微生物たちが移動しながら生き延びていた可能性もあるからです。

 

関連記事:火星の地下に氷の層が発見されました!将来宇宙飛行士の飲み水に?

 

火星の水の間接的証拠

 

2003年、火星大気中にメタンの痕跡が発見されています。

痕跡量が大気中に存在するためにはどこかに供給源がなくてはならないため、

とても有意義な発見でした。

 

火星では1年で270トンのメタンが生産されていると想定されましたが、

小惑星が衝突したことでできる分はその0.8%にしか過ぎません。

 

得意な地質が供給源になるという場合も考えられますが、

現在の火星には活動している火山・熱水噴出孔・ホットスポットなどは見られず、

この供給源も考えにくいようです。

「メタン菌」のような微生物から供給される可能性もありますが、まだ不明です。

 

もし火星に住む微生物がメタンを作っているとすれば、

液体の水が存在できるくらい高い温度の地中深くにいる可能性が高いとされています。

 

2005年に火星を探査していた「スピリット」が、土にはまってしまうということがありましたが、

その場所から豊富な量のシリカが発見されました。

シリカというのは、二酸化ケイ素もしくはそれによってできる物質ですが、

火山の蒸気の効果と考えられ、

過去に微生物の育成に適した場所だったのではないかという考えがあります。

 

また、火星にはその地質からは異常な現象とされている「間欠泉」も発見されています。

この間欠泉はイギリスのチームも、この地形が液体の水・地温勾配エネルギーから生じるなら、

有機物・微生物、または簡単な植物も生存できるのではないかと考えています。

 

 

これからの火星生命探索

 

NASAのエイムズ研究センターが主導し、

アタカマ探査車宇宙生物学掘削調査「ARADS」というプロジェクトを実施しました。

その一環としてアタカマ砂漠の塩に生きる極限環境微生物を調べるためサンプルの採取も行われました。

この生命力がすごく強い微生物は、火星の生命探索の技術・戦略に役立つとされます。

今から4年間、ARADSは再びアタカマ砂漠を対象として火星の生命の証拠を探す

走行・掘削・生命探索技術についての実用性をチェックすることになります。

 

2020年、NASAは原子力電池で走りさまざまな地形に対応できる

次世代火星探査車の打ち上げを予定しています。

探査車はキュリオシティが行う探査活動に加わって、生命の痕跡を探します。

 

また、地球に持ち帰るサンプルを回収する作業も検討されていますが、

コストなどの面もあり賛否が分かれています。

 

火星の物質を地球に持ち帰るというリスクもゼロではありません。

映画にもなったマイクル・クライトンの「アンドロメダ病原体」で描かれたように、

火星のなにかが地球の生物圏を蝕むといった可能性もあるかもしれません。

 

 

「惑星保護」の視点も必要

 

火星の生命についてでした。「火星の生命を見つけることは簡単ではない」と、

SETI(地球外知的生命体探査)協会の研究員ジョン・ランメル氏は説明します。

 

火星に地球の命体を持ち込まない仕事も大変だと彼は指摘します。

無人火星探査機に付着し生きて打ち上げられる微生物は3億個程と考えられており、

生命の検出が目的の探査機では、1機あたりで3万個前後にしなければならないためです。

多くの同乗者がいては、火星の微生物を探す作業が困難となるためです。

 

また現在は「惑星保護」の観点から、

火星の生命に影響を与えないようにする予防措置とられています。

人間が持ち込んだ生命が火星で繁殖し、

探し求めている火星の生命の痕跡を汚染する可能性はあるのか。

また反対に、火星起源の微生物が発見されたとき、宇宙飛行士の身の危険の可能性はないのか。

やはり火星の生命を探すのは厳しいという現実があるようです。

 

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