冥王星 太陽系

冥王星ってどんな星?惑星から準惑星になった冥王星の歴史

2017年2月25日

 

海王星の外側に、小天体が1000個以上も回っていることが確認されるようになるまで、冥王星は、太陽系の9番目の惑星でした。冥王星を含むそれらの小天体群は、海王星までの他の惑星と違って、公転軌道面が大きく傾いており、大きさは地球の月よりも小さく、ほとんどが直径1000kmに満たない小さな天体です。太陽系の研究者たちは、冥王星もそれら小天体のグループに入れるべきと考え、2006年8月の国際天文学連合(IAU)の総会で、新たな準惑星という分類が設けられ、冥王星は太陽系の惑星から外されることになったのです。

 

(冥王星の「降格」に反対する抗議のキャンペーン wikipedia)

 

これに対して、アメリカでは大きな反対運動が起きました。冥王星はアメリカの天文学者が発見した唯一の惑星で、子供から大人まで親しまれてきました。ディズニーに登場するプルートは、冥王星の英語名 "Pluto"からとったもの。冥王星はアメリカの誇りといってもよい天体なのです。ボイジャーが果たせなかった冥王星探査を、30年後に探査機ニューホライズンズで実現したのは、冥王星に対するアメリカ人の、強い思い入れがあったからでしょう。冥王星は大変に遠く、太陽との平均距離はおよそ60億キロもあります。ハッブル宇宙望遠鏡のカメラでさえ、ぼんやりとした輪郭しかとらえられません。太陽系の外縁をひっそりと回っているこの天体は、ニューホライズンズの観測によって、単に凍り付いたガスや氷の塊ではなく、変化に富んだ複雑な地形を持つ天体であることがわかってきました。さて、冥王星とは一体どんな星なのでしょうか。

 

冥王星の発見

 

天王星の公転軌道が、ニュートン力学にもとづいた位置とずれがあることから、計算によって海王星の発見につながったように、海王星の軌道の乱れからも、外側に更なる惑星が存在することが予想されていました。1909年には2人の天文学者が、海王星の外側にある新惑星の位置を予測し、1911年にはインドの天文学者が、新惑星に関する自らの計算結果を学会で発表しています。

 

(パーシヴァル・ローウェル 出典元:wikipedia)

 

1905年、アメリカのパーシヴァル・ローウェルが、ローウェル天文台で新惑星の探索を開始しましたが1916年に死去、その後1926年まで探索は開始されませんでした。1929年になって、ローウェル天文台に勤務していたクライド・トンボーが、探索を引き継ぐことになりました。彼は、当時の新しい技術であった写真撮影を使用し、新惑星が予想された区域を、数週間をあけて写真に撮影しました。それらを重ねることによって、動いている星がないかを調べたのです。

 

クライド・トンボー(出典:Wikipedia)

 

トンボーは1930年2月18日に、動きがある天体を発見しました。1930年の1月23日と1月29日に撮影した2枚の写真を重ねた結果、位置が動いている星があったのです。彼がハーバード大学の天文台に、新惑星の発見を電報で知らせたのは、1か月後の3月13日のことでした。

 

(ヴェネチア・バーニー wikipedia)

 

新惑星の命名は、11歳の少女ヴェネチア・バーニーの案が採用され、1930年の5月1日にPluto(プルート)に決定しました。プルートの頭文字2文字が、発見者のPercival Lowell(パーシヴァル・ローウェル)の頭文字と一致したことも、採用された理由のひとつでした。実はローウエルは日本を訪れています。1889年から1893年にかけて、日本は明治時代です。彼が訪れたという石川県の穴水町にはローウエル顕彰碑が作られ、5月にはローウエル祭が行われています。

 

冥王星の軌道

冥王星(Pluto)と海王星(Neptune)の軌道(出典:Wikipedia)

 

冥王星の軌道が太陽系の他の惑星と異なる点は、軌道面の傾きです。海王星までの惑星は、すべて黄道面と呼ばれる同じ平面内にあります。しかし冥王星はこの黄道面に対して、約17度傾いた軌道面を持っています。また、軌道円の中心は太陽から大きくずれていて、冥王星が太陽に一番近付く近日点では、海王星の軌道よりも内側に入り込むようになります。この現象が起こったのは、最近では1979年2月7日から1999年2月11日の20年間です。

 

冥王星の内部構造

 

天王星や海王星のようなガス型惑星ではなく、氷と岩石を主体としているようです。太陽系外縁天体に属する他の天体と同じような組成だと見られます。表面は水の氷、メタンや窒素、二酸化炭素が固く凍りついたもので覆われています。現在はあまり詳しいことは分かっていませんが、冥王星を探索したニューホライズンズからの観測データの解析が進めば、もっと詳細なことがわかるでしょう。

 

探査機ニューホライズンズが撮影した表面の写真をみると、3000m級の山々や、川の流れで浸食された深い峡谷、ひび割れができた広大な氷の平原があったりと、内部に液体の層がある可能性があります。表面は比較的早いサイクルで更新されているように見え、地形の変化は活発のようです。

太陽から60億キロも離れ、太陽の熱エネルギーはほとんど届かない極寒の天体で、何が熱源となって氷を溶かしているのでしょうか。冥王星の地中には放射性鉱物が多くあることが確認されており、それが自然崩壊するときに熱が発生しているかもしれません。しかしそれだけでは、冥王星の地形を短期間で更新する熱量には足らないと見られています。近くに大きな潮汐力を生み出す巨大な惑星もないため、何が熱源となっているのか? 今後の研究成果が待たれます。

 

冥王星の大気

ニューホライズンズが振り向きざまに撮影した冥王星

太陽を背景にして輪郭が青いもやで囲まれている。(出典:NASA)

 

冥王星の直径は約2300kmで、月(直径3474km)よりも小さく、大気をとどめておくにはあまりに重力が小さすぎるように思えます。しかし、ニューホライズンズが冥王星を通り過ぎて、振り向きざまに撮影した写真では、太陽をバックに輪郭が青く美しい靄のようなもので囲まれています。これはメタンが紫外線で分解された、極めて薄い大気のようです。もし冥王星の地上に降り立つことができたら、深い青色の空が見られるかもしれません。

 

ハート形に光る「スプートニク平原」

 

探査機ニューホライズンズが撮影した冥王星の表面には、特徴的な大きなハート形の白い領域があり、話題になりました。これは、トンボー領域またはスプートニク平原と名付けられた、幅が1200kmにもなる氷の平原です。

 

スプートニク平原の湧き上がってきた氷が作った多角形のパターン(出典:NASA)

 

巨大な盆地が、周囲の山々から流れ込んできた液体の窒素やメタンによって埋められ、凍り付いてスケートリンクのようになったとみられます。ニューホライズンズから送られてきた接近画像を詳しく観察すると、氷の平原は大きな多角形のタイルを敷き詰めたように、分割されていることがわかりました。地下に対流する氷の層があって、絶えず表面に氷が湧き上ってきていて、それが多角形の模様を作り出しているようです。

 

冥王星の衛星

 

冥王星の衛星カロン(ニューホライズンズ撮影 出典:NASA)

 

カロン

これまでに5個の衛星が確認されています。最大のものはカロンで、1978年6月22日にアメリカの天文学者ジェームス・クリスティーが発見しました。カロンは直径が1208kmもあり、冥王星(直径:2370km)に対する衛星としては大きく、カロンと冥王星は、二重準惑星の関係にあると考える天文学者もいます。地上から赤外線スペクトルを観測することによりカロンの表面には氷が存在することが、1999年にすでに確認されていました。また、冥王星との潮汐力による内部組織の変形で、摩擦熱が発生し、カロン内部に液体の海が存在していた可能性もあります。北極付近は300kmほどの暗い領域があって、光を吸収するなんらかの物質で覆われているようです。また、南半球側にはクレータが多く、切り立った深い崖が、衛星を斜めに横切っている様子が確認できます。

 

その他の衛星

 

冥王星の衛星二クス(ニューホライズンズ撮影 出典:NASA)

 

ニクスとヒドラは、2005年にハッブル宇宙望遠鏡の観測で発見された、いずれも直径が40km程度の小さな衛星です。さらにハッブルは2011年にケルベロスを、2012年にステュクスを発見しました。これらはさらに小さく直径は十数キロしかありません。カロン以外の4つの衛星は、冥王星に別の小天体が衝突してカロンが作られたときに、飛び散った破片が再び衝突し合ってできたものと考えられています

 

探査機ニューホライズンズ

ニューホライズンズの打ち上げ(出典:Wikipedia)

 

冥王星を含む太陽系外縁天体を観測することを目的とした、アメリカの探査機。

海王星を越えて航行を続けている探査機としては、1977年に打ち上げられたボイジャー1号・2号があります。ボイジャーでは冥王星探査も当初は計画されていましたが、最終的に冥王星の観測は行われませんでした。ボイジャーは現在冥王星軌道を越え、さらに太陽系を出て外宇宙を飛び続けています。

冥王星の観測を目的とした探査機ニューホライズンズが打ち上げられたのは、2006年1月9日のことです。ボイジャー打ち上げから約30年が経っていました。短期間で冥王星に到達するため速度を重視。探査機は大幅に軽量化されました。ロケットはアトラスV型に補助ブースター5本をつけたもので、強大な推進力で探査機を地球の重力圏から引き剝がします。

 

ロケットはかつての探査機を上回る高速で、地球の周回軌道を脱出。切り離された第2段ロケットでさえ、遠地点が小惑星帯付近となる人工惑星になり、太陽の周りをまわりはじめます。さらに第3段部分も切り離し後、探査機の後を追って、冥王星を目指す軌道を進んでいきます。

 

月の軌道を超えるまで9時間、アポロが4日かかっていたのに比べるとその速さがわかります。(といってもアポロは3人を乗せていたので重量がかなり違いますが)火星まで3か月、木星を13か月後にスイングバイしてさらに加速、冥王星を目指しました。

 

しかしそれほどの高速でも冥王星ははるかに遠く、到着まで9年以上かかるのです。探査機には、冥王星を発見したクライド・トンボーの遺灰が積まれましたが、それは打ち上げ後に公表されました。冥王星は太陽から遠く離れているため、太陽電池は使えません。かわりに原子力電池が搭載されました。これはプルトニウムのペレットを詰め合わせたもので、放射性元素の崩壊熱で発電する仕組み。ボイジャーや、カッシーニ探査機でも使われたものです。

 

探査機ニューホライズンズ:左側に突き出している黒い円筒部分が原子力電池(出典:Wikipedia)

 

また、探査機から地球にデータを送信する際の通信速度は、毎秒800ビットで1kビット以下という遅さ。地上のインターネットはメガビット級の速度を出す時代で、この遅さは驚きです。しかし、60億キロの距離を越えて、地球に微弱な電波を送り届けるには、ノイズに埋もれないよう、ゆっくりと確実にデータを送信する必要があるのです。また、探査機に搭載されるコンピュータは最新のものでなく、従来から使われている安定したシステムが使われます。高性能なコンピュータ機器にはナノレベルの配線が使われていて、長期間紫外線に晒されることによって、断線する可能性があります。そのため、性能は低くても丈夫で安定したコンピュータが使われるのです。観測データはいったん、探査機に搭載された8GBのフラッシュメモリに蓄えられ、時間をかけて少しずつ地球にデータを送る方式が採られました。探査機が冥王星の観測データをすべて送信し終えたのは、観測が終了してから約1年後の2016年10月28日のことです。

 

冥王星の巨大な氷火山(ニューホライズンズ撮影出典:NASA)

 

そのようにしてニューホライズンズから送られてきた画像データは、1ピクセルあたり400mを描画する高解像度で、複雑な地形が手に取るようにわかります。とても60億キロも離れた天体のものとは思えません。火星の表面を撮影した画像を見ているのかと、錯覚してしまうほどです。

 

ニューホライズンズの軌道と冥王星(Pluto)、2014Mu69の位置:

ニューホライズンズが真っすぐに、冥王星を目指して進んできたことがわかる。(出典:Wikipedia)

 

なお、冥王星を通過したニューホライズンズは、さらに16億km遠くのカイパーベルト(太陽系外縁天体)にある小さな天体「2014 MU69」を目指して飛び続けています。ニューホライズンズが「2014 MU69」へ到着するのは、2019年1月1日の予定です。

 

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