宇宙雑学

宇宙ゴミ・スペースデブリが何故いま問題なのか?その1

2017年4月5日

 

近年、宇宙デブリ、またはスペースデブリという言葉をよく耳にするようになりました。一昔前までは、一般的に宇宙のニュースといえばロケットの打ち上げやISS国際宇宙ステーションのニュースにみる夢や希望にあふれる話題が多かったと思います。しかし昨今、地球規模的な深刻な問題としてスペースデブリが取り上げられるようになりました。このことは地球に住む私たちにとって宇宙というエリアが随分と身近になってきたことを表していると思うのですが、同時にこのことは私たち人類の宇宙開発に警笛を鳴らすことにもつながっているようです。ではこのスペースデブリ、一体何なのでしょうか?今回はスペースデブリについて、それが一体なんなのか、何が問題なのか、ということをわかりやすく書きたいと思います。

 

スペースデブリって一体なに?

 

まず、“デブリ”とは、英語で書くと“debris”です。宇宙の話を抜いて訳すと、物体の破片や葛などの残骸、地質学的に使う時には岩屑を表します。これに“宇宙=スペース”がつくわけです。“スペースデブリ”とは、宇宙にある破片や残骸。私たちにとって一番わかりやすい言葉で表現するなら、“宇宙のゴミ”と言っていいでしょう。宇宙のゴミというのは、紙くずのような柔らかい素材ではありません。その素材は、我々人間が近年これまでに行ってきた宇宙開発によって打ち上げた人工衛星やロケットなどの残骸なのです。スペースデブリの定義として最も特徴的なことは、それが “機械的な人工物”であるということです。地球上でもゴミ問題というとまだまだ未解決な部分が多いと思うのですが、今宇宙でもゴミの環境問題がすでに起こり始めているのです。人工衛星などその機体そのものがその役割を終えた後、そのまま宇宙空間に残されているものが多くあります。また、途中で故障したものや、ロケットの離脱による破片、機体の故障によって外れた一部のカケラやその残骸なども、宇宙空間でそのまま漂っているものも多いのです。私たち人類が宇宙開発を始めてから約60年(2017年現在)になりますが、その間打ち上げられた人工衛星やロケットなどの輝かしい功績・実績がその役割を終えた今、様々な形で宇宙のゴミとして取り残されているのです。スペースデブリとは、このようなもののことを言うのです。
 

スペースデブリの問題とは何か

(高度2,000km以下の軌道を周回するスペースデブリの分布 wikipedia)

 

スペースデブリは、地球の地表からの高度が約2000キロ以下の低軌道のあたりに多く存在しています。スペースデブリが最も多く集中しているところは高度800キロ付近だということです。(もちろん高度36,000キロの静止軌道あたりにも人工衛星は打ち上げられているのでスペースデブリもあるのですが、その絶対量は今の所少ないということです。)そして、その大きさは様々ですが、ミリ単位のものは数千万個以上、1センチから10センチくらいの大きさのものは、約50万個はあると言われており、そのスピードは、だいたい秒速7キロくらいで地球の軌道を回っているということです。そのスペースデブリが稼働中の人工衛星やISS国際宇宙ステーションなどの物体にぶつかったらどうなるでしょう。その衝撃によって故障や不具合、ひいてはISSに滞在中の宇宙飛行士の生命の危険にも繋がる可能性があるのです。たとえミリ単位のスペースデブリでも、仮にも船外活動をしている宇宙飛行士の宇宙服に当たるようなことになれば、貫通する可能性ももちろんあるのです。実際に2011年にはISS滞在中の宇宙飛行士が、スペースデブリの衝突回避のため、連結しているソユーズに避難したこともありました。仮に、人工衛星やISSがスペースデブリと衝突するより前にスペースデブリを認知・発見したとはいえ、即座にその軌道を変更することはできないようです。また、今の技術では、10センチ以下の大きさのスペースデブリの観測技術は開発途上のようです。

 

世界中がスペースデブリの深刻さにやっと気づいた出来事

(イリジウム衛星の実物大模型 wikipedia)

 

2007年に中国は、ミサイルによって人工衛星を爆破する実験を行いました。この衝撃によって破片が散り散りに宇宙に散布され、スペースデブリの量は急激に増えることになりました。また、2009年にはアメリカが打ち上げた運用中の人工衛星イリジウムとロシアが打ち上げたすでに稼働を終えた人工衛星コスモスが衝突しました。これによってその破片が大小様々な大きさで宇宙空間を漂うことになりました。これらの出来事によって一気にスペースデブリの量が増えました。スペースデブリが増えるということは、同時に自国の開発した人工衛星のリスクも増すと言うことにつながります。スペースデブリの問題は、これ以前から懸念はされていましたが、ここにきて一気に世界中に認知され、懸念され、対応対策の道がようやく進む流れになってきたのだと思います。

 

 

世界のスペースデブリに対する取り組みについて

 

2007年に、「スペースデブリ低減ガイドライン」が国連で採択されました。これは、“ロケットなど宇宙へ送り込む機体の設計段階からスペースデブリを出さないようにすること”そして“低軌道の人工衛星は運用後に一定の年月以内に大気圏に突入して燃やすようにすること”などが盛り込まれています。ただ、これは加盟国の努力目標であって、法的罰則力を持たないものです。世界各国が次々と宇宙開発への道を歩む中で、自国の人工衛星の安全が損なわれる恐れがあるわけですから、ルール作りは当然と言えば当然のようですが、各国のしがらみやコストの問題などもあるようで、罰則規定を持つほどの強固な法律制定には時間がかかるのかもしれません。

 

スペースデブリの対策としては、①スペースデブリを出さないこと ②今ある(今後も増えるであろう)スペースデブリを減らすこと ③スペースデブリの位置の認知・監視すること の大きく3つの視点で研究開発が進められているようです。具体的な取り組みの一部としては、①については、これまで宇宙に捨ててきた細かい部品を紐などで本体に取り付けたままの状態にする、また、余った燃料を廃棄して爆発を防ぐなどの努力は行われているようです。

 

②については、ロボットを使ってスペースデブリを移動させる(ドイツなど)、導電性テザー(日本やアメリカ)を使ってスペースデブリを大気圏に落とすなどの研究が進められているようですが、どれもまだ開発途上の段階です。

 

③スペースデブリの監視については、日本では今は1メートル以上のスペースデブリを、アメリカでは10センチ以上のスペースデブリを観測できるようです。各国による情報交換や協力体制も重要になりそうです。

 

 

日本での取り組みについて

(ISSから撮影したこうのとり6号機 wikipedia)

 

日本では、記憶に新しいところでは、2017年2月に宇宙ステーション補給機「こうのとり」がその役割を終えて大気圏に突入し、燃え尽きました。実はこの直前に、スペースデブリ除去のための新技術の実験が行われたのですが、その一部に障害が生じ、失敗に終わりました。(前述した導電性テザーを利用した実験でした…。筆者はこれが成功することを想定して“願いを込めて”文章を書く準備をしていたのですが、残念ながら失敗に終わり…)しかしながら、筆者はこの実験が再度行われることを切に希望しており、研究者の皆様の今後の努力に心から期待したいと思います。また、日本では世界で初めて民間企業がスペースデブリ対策の事業に乗りました。10センチ以下、数ミリに至るまでの微小なスペースデブリを小型人工衛星で観測できる技術を開発しました。2017年度中には打ち上げられる予定ですが、筆者もその成果をとても楽しみにしています。これまでの(まだ短い)宇宙開発の歴史の中で、忠実に誠実に宇宙開発を進めてきた日本は、前述のガイドラインの制定などに率先して関わってきた実績があるので、この分野では特に日本が世界をリードして、着実に迅速に、地球規模でのスペースデブリ問題の解決の道を辿ってほしいと願います。

 

 

今後の動き

 

場所が宇宙なだけに、全てのゴミの駆除には相当なお金と時間を要するようです。しかしながら、今後の人工衛星打ち上げや惑星などの探査事業、宇宙ホテル、宇宙旅行、火星移住計画などなど・・私たち地球人が宇宙に関わろうとする動きは加速的で、おそらく止まることはないでしょう。とすると、地上の自動車規制も同じことが言えるのですが、生命が脅かされるような今の実態は当然この先あってはならないことですし、世界各国が共通のルールを守って安全に宇宙開発を進めていくべきだと思います。環境問題は、もはや地上だけの問題ではないということです。宇宙の環境問題も早急に且つ長期的展望を持って解決の道に進まなければならないでしょう。

 

 

スペースデブリ問題のまとめ

 

今回はスペースデブリに関する“その1”としました。筆者としては“序章”のつもりです。今はまだ、スペースデブリについての世界中の取り組みがスタートラインに立ちつつある状況だと思うので、今回の“その1”では、スペースデブリについての現状がわかりやすく伝わればと思い書きました。続編は未定ですが、その状況の変化や各国の取り組みについて、踏み込んだ記事がどんどん書ければいいなと考えております。とりわけ日本の活躍には期待したいと思います。筆者がスペースデブリについての文章が書ける、と言うことは、つまり、スペースデブリの状況が進化・前進していると捉えて良いと考えます。筆者としては希望を持って“その2”以降を続けたいと思っています。

 

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