「ワームホール」は時空構造の考えられる構造の一つとされ、
時空の一点から離れた一点に直結する空間領域、トンネルのような道のことをいいます。
ワームホールという言葉は宇宙でもよく使われることがあります。
広大な宇宙を一瞬にして移動することができるSFなどでおなじみの「ワープ」や、
「ブラックホール」の反対の存在のような
「ホワイトホール」について考えるときに登場することがある言葉です。
今回はこの謎の多い「ワームホール」について説明してみましょう。
この記事の目次
りんごと虫の例えがわかりやすい!
(ジョン・アーチボルト・ホイーラー wikipedia)
ワームホールとはアメリカの物理学者ジョン・アーチボルト・ホイーラーが
1957年に提唱した仮説で、時空の一点〜別の一点へと直結するトンネルのような空間領域のことです。
ワームホールが通過できる構造なら、
そこを通ったものは光より速く移動することができることになります。
「ワームホール」という名前は、虫がリンゴを食べたときにできる穴に由来しています。
リンゴの表面の一点から裏側へは円周の半分を移動しなければなりませんが、
虫がリンゴの中を掘ると短い距離で移動できるという、わかりやすい例えとなっています。
ワームホールは、「アインシュタイン-ローゼンブリッジ」という別名がありますが、
現在のところは数学的可能性の一つとしてのみ考えられています。
シュヴァルツシルト解で表されたブラックホール解は
周囲の物質をすべて呑み込むという領域を表しますが、
その状況を反転した「ホワイトホール」も存在します。
ブラックホールをホワイトホールと結びワームホールと考える場合は、通過が不可能となります。
またホワイトホールは落下できないな反地平面がありますが、
この面は物理的に非常に不安定のため、
ホワイトホールを仮定したワームホールはすぐ潰れてしまいます。
観測的にホワイトホールの領域の存在となるような事実は、現在のところ全くありません。
通行ができるワームホールは、それが誕生したときに進行方向に対し地平面や反地平面を持たずに、
特異点もないような時空の構造でなければなりません。
つまり、ブラックホール/ホワイトホールを単に繋げた時空とは異なるものということです。
また、それを人間が利用する場合は、
トンネル内は潮汐力がとても小さく通過のための時間がトンネル外を目的地に向かうより
十分に短くなる時空構造になることが望ましいとされます。
アメリカの相対論研究者は、ワームホールの理論からタイムマシンを考えています。
彼らは量子論的なサイズであるきわめて小さなサイズから作り出されたワームホールを、
宇宙船が通れるほど拡大して、そのままではつぶれてしまうトンネルを支える物質を想定、
その上でそこを光速ほどのスピードで通過することを考えました。
ここに、光速で運く物体の時間は遅くなるという「特殊相対性理論」を適用した場合に、
過去に戻ることができる夢のタイムマシンが可能と主張しました。
しかし、これは「もしもタイムマシンを作るなら」といった知的なゲームで、
実際にありえない物理的な仮定を基本にしています。
タイムマシン・ワープというものは因果律に反するため、
ジョン・アーチボルト・ホイーラー実際にはできないと考える科学者も存在します。
タイムラベルの方法としては、ワームホールを利用したもののほかにも、
「タキオン理論」というものもあります。
光速以上に早い速度の粒子があれば、虚数の質量が仮定されますが、
この粒子をタキオンといいます。
タキオンがもし利用できれば時間の逆行も可能ではという理論です。
実際にはこの粒子は発見されておらず、因果律の原則から発見の可能性もないとされています。
2011年にヨーロッパとアメリカ、日本等の研究チームが、
欧州原子核研究機構のスイスの施設で生成した高い貫通性を持つニュートリノを地中に飛ばして、
イタリアの施設で検出した際に、光が通過した場合より60ナノ秒早く検出されたという、
謎の現象が起こりました。
これは、日本の研究施設スーパーカミオカンデ等の実験で
ニュートリノは正の質量をもつと判明していたので、
タキオンでない正質量粒子が超光速というのはありえないということになり、大騒ぎになりました。
この現象は世界中でセンセーショナルに報道され、
日本もNHKなどがニュース番組で報道したので、広く知られることになりました。
最終的には、実験中に時間を厳密に計測するため、
使用したGPS衛星の信号と時計とを同期させる装置のケーブルの緩みから時間のズレが起こったとされ、
「超光速ニュートリノ」の存在は消えています。
宇宙にはワームホールがある!?
宇宙はワームホールだらけという説もあります。
日本の宇宙航空研究開発機構、JAXAは先日、
通信が途絶え制御不能になったX線天文衛星の「ひとみ」について、復旧の断念を発表しました。
「ひとみ」が行った最後のアクションは、
「活動銀河核」という天体を観測するための姿勢変更の運用でした。
この、明るい光を放っている活動銀河核は膨大なエネルギーを放出していますが、
その環境が注目を浴びています。
学術誌の論文を公開するプレプリントサーバサイトの「arXiv」での最新論文によれば、
この活動銀河核にあの「ワームホール」を生成する鍵があるのではということです。
ランカスター大学のコンスタンティノス・ディモポウロス博士が発表したこの論文によれば、
宇宙に存在している「ダークマター」が仮説上の素粒子である「アクシオン」ならば、
活動銀河核の周りにはワームホールがあるのではないかとしています。
研究では、負のエネルギーがある空間では、
離れた空間同士が1つの場所として存在できるということです。
特定の場所にワームホールを作ったり、
そこをどのようにして通るのかという問題はありますが、
理論的にホームホールの存在を明確にしたことは事実です。
しかし、これは負のエネルギーが前提になっているので、実現の可能性はあまりないようです。
ただし、負のエネルギーというものは実際に存在しています。
カシミール効果というのは、真空エネルギーの差によってできる物理現象ですが、
このエネルギーは負のエネルギーを示すとされています。
「アクシオン」は、素粒子物理学のひとつである「量子色力学」のなかの「強いCP問題」
の解決にとって重要となる仮説の素粒子です。
アクシオンというのは電磁波・重力の影響を受け、
強い磁場では「光子」に変わるとされています。
このため、太陽から届いているというアクシオンを、
強い磁場によって光子に変えようと世界の科学者たちが研究しています。
アクシオンは、宇宙にくまなく存在しているというダークマターの正体ではないかという
説があります。もしもダークマターが本当にアクシオンだった場合、
ワームホールが存在する可能性があります。
アクシオンは、強力な磁場を受けると負のエネルギーに変化するというデータがあるからです。
その強力な磁場がどこにあるのかというと、活動銀河核が挙げられます。
これは普通の銀河よりも大量のエネルギーを出してひときわ輝いている銀河ですが、
ほとんどは活動銀河核の中心部から出されています。
ここには巨大なブラックホールがあるとされていて、
周囲には出されたプラズマのために強い磁場があるということです。
つまり、活動銀河核のように強い磁場があるところでは、
アクシオンは負のエネルギーとなり、そこにワームホールが生まれる可能性があるということです。
ディモポウロス博士は、「高度な文明ならば、
磁場を人工的に作ってワームホールを生むこともできるかもしれない」としています。
NASAが公式に発表した異次元ワームホールの「Xポイント」
1998年、アメリカ航空宇宙局・NASAの観測衛星が、
地球の「大気中に空いている穴」を発見しました。
その数年後、NASAは公式にそれが「ワームホール」ではないかと発表したものの、
これはあまりにSF的とされたのか、マスメディアからほとんど無視されました。
しかし、去年2017年に事態は一変し、
海外メディアも本当にワープができるワームホールかもしれないと報道するようになりました。
NASAの見解では、2012年7月2日付の公式ウェブサイトによれば、
発見された場所は「Xポイント」という名で呼ばれ、
地球の磁場〜太陽の磁場をつなぐ役割を担っているとしています。
その中では高エネルギー粒子が行き来しているので、
磁気嵐・オーロラ等、地球の大気にも影響を与えているということです。
これは表面的な解説ですが、その中には驚きの発言がありました。
「これがワームホールのようなものだ」としているのです。
あのNASAが公式に発表したので、明確な科学的な裏付けがあることは間違いないでしょう。
2014年に磁気観測衛星「MMS」を打ち上げて、調査に乗り出すとしていました。
この時はその存在・調査計画を公表しただけでしたが、
公式には明らかではないので真偽は不明ですが、
現在NASAはすでに4機の宇宙船をこの「Xポイント」に送り、
ワープの方法を模索しているのではという話もあります。
NASAは「地球の周辺の基本的な特徴を探る」と語り、
「Xポイント」の言及はなかったそうです。
しかし、同計画に携わっているアイオワ大学ジャック・スカダー教授は
過去にこのように発言しています。
「XポイントはSF的瞬間移動ポータルに近いものです。
SFと違う点は、Xスポットは実在のものだということです」
ただ、多くのXポイントは一瞬で消えるくらい小さなもののため、
実現するには困難が伴うようです。
ワームホールが登場するSF映画「インターステラー」
ワームホールはSFにもよく出てくる言葉です。
2014年にヒットしたSF映画「インターステラー」においては、地球環境の悪化から、
地球を離れて新しい居住可能な惑星の探索を行うためにワームホールを通り、
ほかの銀河系に有人惑星間航行「インター・ステラー」する宇宙飛行士たちが描かれています。
三次元においての不可逆性の時間・重力場・特殊相対性理論・特異点・
ニュートン力学・スイングバイ航法・漆黒の宇宙空間・音の伝達・
運動の三法則等、科学的考証をふんだんに使った演出や、
人類の存亡を賭けての未知世界へと向かう倫理・勇気・信頼・愛・人生の限られた時間・
ヒューマニズムなどを織り交ぜたストーリー構成になっています。
それもそのはず、この映画にはノーベル物理学賞を受賞した
アメリカの理論物理学者キップ・ソーン氏が科学コンサルタントと製作総指揮を務めていたのです。
Xポイントなんて知ってました?
ワープやタイムマシンなどのSF作品に出てくることが多い、ワームホールについてでした。
今回はかなり難しい話でしたが、
地球の大気にXポイントというワームホールがあるというのはおどろきでしたね。
あまりメディアでも取り上げられなかった話なんですが、もっと詳しく知りたいですよね。