世界の民間宇宙企業で今もっとも有名なスペースXの宇宙船が「ドラゴン2」ですが、ドラゴン2は無人飛行用の「カーゴドラゴン」と、有人飛行用の「クルードラゴン」があります。この「クルードラゴン」初号機に、クルーの一人として日本人の宇宙飛行士野口聡一さんが搭乗することになりました。今回はドラゴン2と、そのドラゴン2に搭乗することになった野口聡一さんについてです。
この記事の目次
初代の宇宙船「ドラゴン」について
「ドラゴン2」とは、アメリカの民間宇宙企業スペースXが開発している宇宙船です。「2」ということは、当然「1」があります。初代の「ドラゴン」は、2010年12月に初試験飛行を行い無事に帰還した宇宙船です。この宇宙船の回収は、商業的民間宇宙機として史上初となる快挙でした。
2012年5月、同じく民間機では史上初の国際宇宙ステーション・ISSのドッキングにも成功しました。耐熱シールドは月・火星から帰還した際の大気圏再突入にも耐えられる設計で、開発費はNASAの「商業軌道輸送サービス計画」の一部より拠出されていました。画像を見てみると、卵型のような、まるでSF映画に出てくるようなフォルムをしています。当初、批評家たちはこの宇宙船を「実現不可能なアイディア」と見ていました。そのため、スペースXのCEOイーロン・マスクはフィクションのドラゴンを名前にしたそうです。
「ドラゴン2」は2種類ある
その初代「ドラゴン」の後継機が「ドラゴン2」です。現在無人宇宙補給機として運用されているドラゴンの後継機で、スペースX社の「ファルコン9」ロケットに搭載され打ち上げられ、着水帰還するように設計されています。ドラゴン2は初代ドラゴンと比べてフライトコンピューター・アビオニクスが新しくなり、形状も変って大きい窓ができ、太陽電池アレイも再設計される等の変更があります。
さらに、ドラゴン2は、「クルードラゴン」という有人飛行タイプと、「カーゴドラゴン」という無人飛行タイプの2種類があります。「クルードラゴン」は、2011年に役目を終えた「スペースシャトル」以来の有人宇宙船になります。全長8.1メートル・直径4メートルの機体で、四隅に各2基ずつある「スーパー・ドラコエンジン」を逆噴射させるという独特の打ち上げシステムがあります。
クルードラゴンは最大で7人乗り。さらに貨物を載せることができます。アメリカは、スペースシャトルが実現できなかった「再利用可能でコストが低い宇宙往還機」を念頭にしており、NASAは宇宙船開発・運用をしてくれる民間企業の宇宙船を使うというビジネスモデルの計画をしていました。この2種類のタイプが、商業補給サービスと商業乗員輸送開発計画で、ISSの輸送に使われる予定です。
また、クルードラゴンは月への宇宙旅行に使うことも想定されているというので、これは楽しみですね。完全自動化されたランデブー/ドッキング能力があり、「NASAドッキング機構」によりISSと接続する設計です。典型的ミッションではISSに180日間ドッキングしますが、クルードラゴンそのものはロシアのソユーズと同じく210日間という滞在能力があります。
クルードラゴンの有人飛行テストがまもなく
クルードラゴンは、昨年の2019年3月に行われた無人テスト飛行計画「Demo-1」でISSから往復し、今年1月では打ち上げ時トラブルでの脱出装置テストも成功。今年5月28日にはロバート・ベンケン氏とダグラス・ハーリー氏の2名の宇宙飛行士が搭乗する有人飛行テストは「Demo-2」が予定されています。ベンケン宇宙飛行士は2008年・2010年2月にスペースシャトルに搭乗しており、ハーリー宇宙飛行士は2009年7月・2011年7月のスペースシャトルに搭乗しています。
クルー・ドラゴンは宇宙で各種テストをし、約24時間後にISSに到着の予定。地球に帰還する日時は未定ですが、クルードラゴンによって地球の大気圏に再突入し、大西洋上で回収される計画です。この「Demo-2」が無事に成功し、NASAに許可されることで、クルードラゴンの活動が本格的に始動します。
クルードラゴンに乗る宇宙飛行士の野口聡一さん
「Demo-2」の次、クルードラゴンの初号機に、宇宙航空研究開発機構・JAXAの宇宙飛行士である野口聡一さんが「ミッションスペシャリスト」としてISSへと向かうことが予定されており、これは野口さんの3回目の宇宙滞在になります。「Demo-2」が成功すれば、今年の8月頃に1号機の「USCV-1」が、船長のNASAのマイケル・ホプキンス宇宙飛行士、NASAのパイロットのヴィクター・グローヴァー宇宙飛行士、NASAのミッション・スペシャリストのシャノン・ウォーカー宇宙飛行士と共に野口さんが搭乗して打ち上げられる予定です。
JAXAの宇宙飛行士の野口聡一さんは54歳。東京大学大学院修了後、石川島播磨重工業を経て1996年にNASDA(現JAXA)の宇宙飛行士候補者に選ばれました。1998年にはNASAのミッション・スペシャリストに認定され、さらに訓練を重ねて、2001年にスペースシャトルによるISSの組み立てミッションの搭乗員に選ばれました。野口さんは同ミッションで、船外活動のリーダーを3回務め、軌道上でシャトルの耐熱タイル補修検証テスト、ISSの姿勢制御装置等の交換・機器の取付け/回収などを実施しました。2009年12月には日本人で初のソユーズ宇宙船フライト・エンジニアとして2回目になる宇宙飛行を行い、ISSで「きぼう」日本実験棟の作業を実施。
2012年〜2016年までJAXA宇宙飛行士のグループ長となり、その後はアメリカの民間企業の有人宇宙船に搭乗するための訓練をしていて、今回の選出となりました。野口さんは、現在の新型コロナウイルスにも触れ「日本と同じくアメリカでも自宅待機や外出制限ですが、一日ずつ乗り切って行きたい」と話しています。
スペースXの有人宇宙船「クルードラゴン」がまもなく打ち上げ
スペースXの宇宙船「クルードラゴン」と、この機体に登場するJAXAの宇宙飛行士の野口聡一さんについてでした。「スペースシャトル」以来の有人宇宙船、しかも民間企業の宇宙船で、さらに日本人の宇宙飛行士の野口聡一さんが搭乗するということで、注目ですね。