このたび、これまでの探査中で地球に一番近いブラックホールが発見されたそうです。宇宙の謎の代表的存在であるブラックホール。最も近いもので地球からどれくらいの場所にあるんでしょうか。
新しく見つかったブラックホール
ブラックホールは非常に強い重力を持っていて、あらゆる物質や光さえ吸収するとされている謎の多い天体です。このサイトでも紹介しましたが、先日は世界で初めてブラックホールが撮影されたとして話題になりましたね。
ブラックホールといえば宇宙の謎の代表的存在なので、興味がつきませんが、今年2020年5月の学術誌「Astronomy & Astrophysics」に掲載された論文によると、太陽系から約1000光年という場所にある「ぼうえんきょう座」の「HR 6819」という連星で、ブラックホールが発見されたそうです。
太陽の約4倍という質量で2つの星と共に運動しており、現時点ではこれがこれまで発見された地球から最も近い場所に存在しているブラックホールになります。
知名度が低い「ぼうえんきょう座」ですが
地球の南半球では、冬の夜空には望遠鏡などを使わなくても、自分の目によって「ぼうえんきょう座」が見えます。「ぼうえんきょう座」という変わった名前の星座は、18世紀にフランスの天文学者ニコラ・ルイ・ド・ラカーユによって設定されました。
まるで望遠鏡のように見える「ぼうえんきょう座」のモチーフになったのは、18世紀主流だった非常に長い鏡筒の屈折望遠鏡です。この時代の望遠鏡は、精度が低いレンズを使っていたので、焦点の距離を延ばして色収差を低減していたのです。
この星座には青く輝く光が2つあり、これが「2連星系」のように見えますが、実はこの2つの星と、さらに1つのブラックホールから構成される「三連星系」だったことがわかったのです。この新しい発見は、銀河系にはブラックホールがほかにもたくさんあるかもしれないということを示唆しています。ちなみに、この「ぼうえんきょう座」、日本ではほとんどの地域で全域が見えませんが、石垣島や宮古島などの九州南部以南では全域を見ることができるということです。
研究者たちが非常に驚いた
実は、今回の発見は当初からブラックホールの調査だったのではなく、この奇妙な星について調査をしていただけだったのです。しかし、研究チームは恒星の1つの軌道が二重連星という仮定では成り立たないとして、恒星の軌道を再分析。結果、この恒星と共に周回しているブラックホールがあるという結論になりました。
このブラックホールは地球から約1000光年先にあり、これまで地球に最も近いブラックホールとして知られていたのは約3500光年にある「いっかくじゅう座X-1」なので、これよりもはるかに近いですね。さらに、X線・光などもない、「真っ暗なブラックホール」としてもまれな発見であり、望遠鏡を使わなくても見える「肉眼で確認できる恒星系で発見された初のブラックホール」でもあります。
論文の共同執筆者ペトル・ハドラバ氏はこの三重星系を、ブラックホールがある恒星が肉眼で見えたことは過去にないとし、観測した天文学者たちをとても驚かせたと説明しています。このブラックホールは、周りに広範囲な影響を及ぼしていないので、その存在が今まで知られることはありませんでした。
今後、今回の発見を皮切りとして、周りに与える影響が少ない「静的な」ブラックホールの発見も相次ぐかもしれないと研究者たちは考えているそうです。また、ブラックホールのまわりを恒星が周回していても、普通はその運動を見ることはできませんが、今回は地球から距離がとても近いため、運動を見ることができるかもしれないと期待されていて、ブラックホールの質量を詳しく知ることができる可能性もあるようです。
ブラックホール研究が深まるかも
1000光年というのは人間からすればすごい遠い距離ですが、それでも宇宙からすれば非常に近い距離になるんですね。南半球の冬には望遠鏡を使わなくても見える星の近くにあるというブラックホールが発見されたということで、興味深い話ですがちょっと怖い話でもありますね。今回の発見で、ブラックホールについての研究がまた進むかもしれません。