現在、新型コロナウイルス感染症の対策で外出を控えているという方は、慣れない生活によるストレスも気になるところですね。ところで、宇宙飛行士は狭い宇宙船で何ヶ月も生活する、いわば「閉鎖空間のプロ」。ということで、ここで日本や世界の宇宙飛行士に聞いた「ステイホームのコツ」を紹介します。
宇宙船は究極の閉鎖空間
現在、新型コロナウイルス感染症が世界中で問題となっています。欧米では感染拡大を防ぐため「ロックダウン」という外出禁止令が出て、市民は自宅待機で人と接触することを避ける生活をしています。日本では欧米のロックダウンのような強い強制はありませんが、できるだけ外出を避ける自粛要請が出されています。
外に出られず自宅で過ごすという生活に苦労している方も多いでしょう。宇宙へ行く宇宙飛行士といえば、究極の閉鎖空間とも言える宇宙船で何ヶ月も過ごす「閉鎖空間のプロ」です。そんな彼らに、家に引きこもる生活で健康を保ち、ストレスを少なくできるような秘訣をもらいました。
スコット・ケリー氏
国際宇宙ステーションで約1年間過ごした経験があるアメリカ航空宇宙局・NASAの元宇宙飛行士スコット・ケリー氏は、心構えが重要だと語ります。
「終わりがいつになるか分からないの中では、予想通りになるものが必要。長期に及ぶ可能性があるときの心構えは宇宙での暮らしを想像して、日課を持つこと。毎日同じ時間に起床・睡眠すること」
国際宇宙ステーションでは、8時間という船外活動から5分間という花の観察にいたるまで、起床〜就寝まで日々のスケジュールが詳細に決められているそうです。閉鎖された場所で生きる場合、決められたスケジュールを守ることが大切になります。
定時に眠ることが質の良い睡眠となり、これがメンタルにも効果があるとNASAの研究者も述べています。また、外出を控える間は、健康のために運動が大事と強調します。
「運動は日課にすること。庭もない家なら窓を開けて外に顔を出しましょう。これを日課にするとよい」
マイク・マッシミーノ氏
NASAで18年間という年月を宇宙飛行士として務めていたマイク・マッシミーノ氏も、地球から数百メートル上空の宇宙で「究極の孤独」を体験した人物です。マッシミーノ氏はスペースシャトルに乗り、合計1ヶ月の「宇宙隔離」を体験しましたが、現在は地球でロックダウンによる自宅待機状態だそうです。
この状態をマッシミーノ氏は、「また宇宙船の中にいるような感覚」と表現しています。マッシミーノ氏は閉鎖空間の過ごし方について、「管制センター」と連絡をし、自分自身も誰かの管制センターになることだと言います。宇宙飛行士らしい用語がありますが、これはつまり「助けて欲しいときは誰かに知らせる。同時に、自分も誰かの助けをすること」という意味でしょう。
同氏は、宇宙でハッブル宇宙望遠鏡の修理をしたときのエピソードを思い出します。彼は、ハンドルを外そうとしてハッブル宇宙望遠鏡の計器にあるボルトのネジをダメにしてしまいました。
「最悪な問題ができてしまった。みんな自分を責めるだろうと考えました」
しかし、地球の管制センターにその報告をすると、彼らはあっけない解決策を教えてくれました。指示通りにハンドルを強く引っ張ってみると、ハンドルは外れ、問題が解決しました。
「誰かの管制センターに自分がなれるし、あなたを助けてくれる管制センターがあることも忘れないで欲しい」と同氏は語ります。
また、運動することも大事だといいます。宇宙の無重力状態にいるときは、筋肉をほとんど使いません。このため、専用のウェイトマシンで筋肉を鍛えているそうです。地上でも家から出られない場合は、体と心のために運動がキーになります。外出できた時には景色を楽しみましょう。ほかにも、意味のある気晴らしをすることなども大切と語っています。
岩田光一さん
日本人初の国際宇宙ステーションの船長を務め、ここで約半年の長期滞在を成功させたのが岩田光一さんです。岩田さんは2020年4月からJAXAの特別参与宇宙飛行士に就任し、宇宙飛行士たちの指導をしています。現在は自宅でテレワークが中心ですが、茨城県つくば市にある筑波宇宙センターでは国際宇宙ステーション「きぼう」の実験、ISSに物資を輸送する「こうのとり」の打ち上げ準備の仕事、月探査に向けたNASA等との調整をしています。
宇宙ステーションの閉鎖空間で過ごした経験を持つ岩田さんからもアドバイスを聞きました。
「新型コロナウイルス感染症で多くの人が自宅で過ごしていますが、宇宙という閉鎖空間で188日間滞在した時と同じく、普段の生活とリズムを同じにするため、日課を定め、自分のペースをつかみ、学び・遊びを両立したメリハリがある生活をすることが大切でしょう。毎日の日課には短くても運動する時間を入れ、週末はよく休んで決して無理をしないことが心と体に重要」と語ります。
「いつもユーモアを忘れず、オンラインで家族・友人とよくコミュニケーションをして楽しみましょう。つらく感じたら、悩んで努力している時が自分を成長させているということも忘れないでください」
フランク・ディベナ氏
2009年にヨーロッパ人として初めて国際宇宙ステーションを指揮したのが、ベルギーの元宇宙飛行士、フランク・ディベナ氏です。ディベナ氏は、たとえインターネット上だけだったとしても、人とのやり取りは極めて重要と語ります。
同氏も最近はロックダウン中の隔離下にあり、毎日同じ時間、必ず高齢の母とビデオ通話をしているそうです。「ビデオ通話で母は僕の顔を見ることができて、僕から呼び出しがあるのが分かっているので、自分で計画を立てることができる」
野口聡一さん
アメリカの民間企業「スペースX」が開発した新型宇宙船「クルードラゴン」の初号機に乗り込み、国際宇宙ステーションに向かうことが決まったのが日本人宇宙飛行士の野口聡一さんです。野口さんは今まで宇宙の滞在日数が170日以上で、これから3回目の宇宙飛行を控え、新型コロナウイルスの影響で自宅で過ごしている人たちにアドバイスをしてくれました。
「国際宇宙ステーションの宇宙飛行士も行動制限があって、自己隔離に近い精神状況になります。自分は朝起きて水を飲み運動する、という日課を作ることが、ペースをつかむためにとても大事でした」と、閉鎖空間で健康に過ごすための、宇宙飛行士らしい秘けつを教えてくれました。
「宇宙船の操作の手順についての動画を自宅で視聴してネットで質問する等、NASAも現在オンライン化しています。仲間とコミュニケーションをとることに苦労してますが、テレビ会議のシステムを使い顔を合わせたり、子どもが後ろで走り回っているのを見たりできたので、このようなことも大切だと思います」
シプリアン・ベルシュ氏
最後に、宇宙飛行士ではありませんが、ドイツのブレーメン大学の宇宙生物学者であるシプリアン・ベルシュ氏のアドバイス。彼は火星探査についての実験で5名のボランティアたちと小さなドームで1年間暮らした経験を持っています。
「やる気が落ちるのは当然なので、罪の意識をもってはいけない。1つか2つの活動を選んで一生懸命それに打ち込むこと。ダンベル・ヨガ・ズンバ等、広くない空間でも体調を保てるスポーツをすること」
宇宙飛行士に学ぶステイホーム
宇宙飛行士が語る「ステイホーム」のコツについてでした。多くの宇宙飛行士が、規則正しい生活と適度な運動を挙げていますね。現在、日本では緊急事態宣言が多くの地域で解除されてきていますが、まだまだこれからも油断できない状況が続くので、ストレスの少ないステイホームをするために「閉鎖空間のプロ」のアドバイスを参考にしてみましょう。