太陽からの距離は28億7000万キロもあり、太陽と土星間の2倍も離れたところにあります。ここまで離れると、太陽は明るい恒星のひとつにすぎず、天王星は太陽のわずかなエネルギーをうけて、宇宙空間にひっそりと冷たく青白い姿を浮かべています。
この記事の目次
太陽から遠く離れた氷の惑星
天王星は、内部にたくわえられている熱量が少なく、海王星が太陽から受ける2.6倍のエネルギーを、宇宙空間に放出しているのに対し、天王星は約1.1倍に過ぎません。このため、天王星の最低気温は−224度で、さらに太陽から遠い海王星より冷たい惑星となっているのです。
天王星の自転軸は大きく傾いていますが、過去に強烈な天体衝突があったと考えられており、その際に天王星の内部から、熱源となる物質が宇宙空間に放出されてしまったのかもしれません。
天王星の観測
土星に次ぐ大きさがありますが、地球からは最大でも+5.6等級の明るさ(肉眼で見える限度が+6等級)で、条件が良いときでなければ、肉眼で発見するのは難しいかもしれません。観測には、双眼鏡か望遠鏡があったほうがよく、小口径の天体望遠鏡による観測では、倍率100倍以上で、青白い円盤が確認できるようになります。
口径15cmから20cmの望遠鏡があれば、表面の微かな模様が見える可能性が出てきます。また、望遠鏡とスマホのカメラを組み合わせて、天王星の衛星を写真に記録しているアマチュア天文家もいます。
公転周期が84年と長いので、星座に対する位置が激しく変わることはありません。現在はうお座の辺りで、秋から冬にかけてみることができます。肉眼で見つけるのはむつかしいので、惑星の位置がわかるスマートホンやパソコンのアプリを使って、位置の見当をつけ、双眼鏡で探すとよいでしょう。また、惑星は黄道(空に太陽が通る道)上にいるので、夕方の西の空に金星と火星を探し、その位置から黄道上をさかのぼっていくと見つけやすいと思います。
天王星の大気と内部構造
ボイジャー2号の観測により、天王星を覆う厚い大気は、水素とヘリウムが主体でメタンを含んでいることがわかりました。この星が青白く見えるのは、大気の上層に含まれるメタンが、太陽の赤い光を吸収してしまうためです。
この一見穏やかに見える大気の層は、7〜8000kmもの厚さがあり、中ではアンモニアの結晶が雪のように降り、ところどころで硫化水素やアンモニアの積乱雲が雷を伴って、嵐を引き起こしていると思われます。
雲の中を下降していくと、次第に気圧と温度が高まってきますが、どこまで行っても固い地面はありません。やがて、水にアンモニアやメタンの氷が混じりあって泥沼のようになったマントル層にたどりつきますが、底なし沼にはまりこんだように、さらに中心部に向かって吸い込まれていきます。中心部には圧縮されて数千度に達している小さな核があると考えられています。
極端に傾いた自転軸
(横倒しになった天王星。南半球には線状の雲、北半球には明るい雲も見える wikipedia)
天王星の自転軸の傾きは98度で、公転面に対してほぼ横倒しになっているのが特徴です。 まるで串に刺しただんごが、ころころと軌道面を転がっているように見えます。また、天王星の衛星やリングも、天王星の傾きに合わせて、傾いた公転面を周っています。
太陽系の中で、このような大きく傾いた自転軸を持つ惑星には、他に金星があります。金星は、自転軸が177.4度傾いていて、ほぼ上下が逆さまになっており、しかも自転方向が他の惑星と逆向きになっています。なぜ、これら2つの惑星だけが、異常な傾きを持つようになったのでしょうか。
惑星ができ始めた頃に、非常に大きな天体が衝突して、自転軸が倒された可能性が考えられます。しかし天王星ほどのサイズの星を傾かせるためには、かなり大きな衝突が2回発生することが必要と考えられています。また、惑星本体だけでなく、衛星やリングも一緒に傾くためには、どのような衝突プロセスがあったのか、更なる研究が行なわれているところです。
天王星の気候
自転軸が横倒しになっているため、自転軸が太陽に向かっている位置(至点:夏至および冬至)にいるときは、赤道面を挟んだ半球側に日が照り続け、その反対側はずっと夜のままになります。公転周期が84年もあるため、長期間その状態が続きますが、太陽から遠いので、半球が極端に熱せられたりすることはなく、気候の変化は緩やかです。ボイジャー2号が到達した1986年は、天王星の南半球が夏至を迎えていたときで、南緯45度から50度にかけた付近に、白く明るい帯がありました。これは太陽熱で大気中のメタンが熱せられて上昇し、濃いメタンの雲ができているためと見られています。
地球でいう春分と秋分にあたる、自転軸が太陽の真横になる位置(分点)に来ると、南半球も北半球も均等に、太陽の光が当たるようになります。そして、自転速度が17時間14分であるため、およそ8時間ごとに昼と夜が訪れます。このときが、天王星で一番良い季節かもしれません。ボイジャー2号の到着時に、南半球に見られた白く光るアンモニアの雲は、南半球が秋分を迎える2007年の分点に向かうにつれて薄くなっていきました。 一方、北半球では長く暗い冬が明けて、春分を迎え、白く明るい雲の渦や、大暗斑と呼ばれる暗い雲が発生し、北半球の気候が活性化していく様子がうかがえます。
天王星の衛星
これまでに27個の衛星が発見されています。
天王星を発見したウイリアム・ハーシェルは、1782年に口径19インチ(47.5cm)、焦点距離20フィート(6m)の当時としては巨大な望遠鏡をつくりあげました。彼は、ガリレオ式の反射望遠鏡を改良したハーシェル式という望遠鏡を発明し、他にもたくさんの望遠鏡を製作しています。
天王星最大の衛星の衛星「ティタニア」と「オベロン」は、ハーシェルが自作の望遠鏡で発見したものです。巨大な望遠鏡は、大掛かりな木製のやぐらで支えられた構造物で、共同研究者でもあった妹のカロライン・ハーシェルの補助なくしては、操作や観測ができませんでした。
1851年には、ウイリアム・ラッセルが、「アリエル」と「ウンブリエル」を発見。ラッセルは、口径24インチ(61cm)の反射鏡を自ら研磨し、観測を行いました。彼は海王星の衛星トリトンも発見しています。
それから100年は新しい衛星の発見はありませんでしたが、1948年にジェラルド・カイパーが、「ミランダ」を発見しています。
1985年から1986年にかけては、ボイジャー2号が天王星に接近し、新たに10個の衛星を発見しました。このうち、「コーディリア」と「オフィーリア」はε環(イプシロンリング)を挟んで公転しているもので「羊飼い衛星」と呼ばれます。
土星の衛星と環(リング)一覧
名前 | 特徴 | 直径/幅 (km) | 軌道半長径 (km) | 発見年/者 | |
ζ(ゼータ)環 | 2,500km | 38,000 ~ 40,500 | 1986:ボイジャー2号 | ||
(6環) | ~ 10km | 41,840km | 1977:カイパー空中天文台
ジェームズ・L・エリオット、エドワード・W・ダナム、ダグラス・J・ミンクの3人 |
||
(5環) | ~ 10km | 42,230km | |||
(4環) | ~ 10km | 42,580km | |||
α(アルファ)環 | 恒星と天王星の食を観測しようとして、背後の恒星の光がリングによって遮られることによって、発見された。 | ~ 10km | 44,720km | ||
β(ベータ)環 | ~ 10km | 45,670km | |||
η(エータ)環 | ~ 10km | 47,190km | |||
γ(ガンマ)環 | ~ 10km | 47,630km | |||
δ(デルタ)環 | ~ 10km | 48,290km | |||
VI | コーディリア | 羊飼い衛星 | 34~46km | 49,770km | 1986:ボイジャー2号 |
λ(ラムダ)環 | ~ 10km | 50,023km | 1986:ボイジャー2号 | ||
ε(エプシロン)環 | 最も明るく密度が濃い部分。リングの厚さは約150m。直径0.2m~20mの粒子が緩く集まっている。 | ~ 100km | 51,149km | 1977:カイパー空中天文台 | |
VII | オフィーリア | 羊飼い衛星 | 35~51km | 53,790km | 1986:ボイジャー2号 |
VIII | ビアンカ | 47~55km | 59,170km | 1986:ボイジャー2号 | |
IX | クレシダ | 76~84km | 61,780km | 1986:ボイジャー2号 | |
X | デズデモーナ | 56~72km | 62,680km | 1986:ボイジャー2号 | |
XI | ジュリエット | 86~102km | 64,350km | 1986:ボイジャー2号 | |
XII | ポーシャ | 127~143km | 66,090km | 1986:ボイジャー2号 | |
ν(ニュー)環 | Outer Ring System:天王星から離れたところにある非常に希薄なリング | 3,800km | 66,100~69,900km | 2003~2005:ハッブル宇宙望遠鏡 | |
XIII | ロザリンド | 60~84km | 69,940km | 1986:ボイジャー2号 | |
XXVII | キューピッド | 内衛星の中で最小 | ~ 17.8km | 74,800km | 2003:ハッブル宇宙望遠鏡 |
XIV | ベリンダ | 65~97km | 75,260km | 1986:ボイジャー2号 | |
XXV | ペルディータ | ~ 26.6km | 76,420km | 1999:Erich Karkoschka | |
XV | パック | 158~166km | 86,010km | 1985:ボイジャー2号 | |
μ(ミュー)環 | Outer Ring System:天王星から離れたところにある非常に希薄なリング | 17,000km | 86,000~103,000km | 2003~2005:ハッブル宇宙望遠鏡 | |
XXVI | マブ | ~ 24.8km | 97,734km | 2003:Mark R. Showalter, Jack J. Lissauer | |
V | ミランダ | 一度破壊され、粉々になり、再び凝集した痕跡を示す地形が残る。公転と自転が同じ(34時間)で常に同じ面を天王星に向けている。 | 470.2
~473km |
129,390km | 1948:ジェラルド・カイパー |
I | アリエル | 表面は新しい物質で更新されており、明るく見える。 | 1156.6
~1159km |
191,020km | 1851:ウイリアム・ラッセル |
II | ウンブリエル | 表面が暗い物質で覆われている。クレータが多い。 | 1163.8~1175km | 266,300km | 1851:ウイリアム・ラッセル |
III | ティタニア | 天王星の衛星の中で最も大きい。地球のグランドキャニオンより大きい渓谷がある。 | 1574.2
~1581.4km |
435,910km | 1787:ウイリアム・ハーシェル |
IV | オベロン | 氷のマントルと分離した岩石の核があるとみられる。液体の水の層が存在する可能性がある | 1517.6~1528km | 583,520km | 1787:ウイリアム・ハーシェル |
XXII | フランシスコ | 傾いた逆行軌道を持つ不規則衛星。捕獲されたカイパーベルト天体。 | ~ 12km | 4,276,000km | 2001: ジョン・J・カヴェラース他 |
XVI | キャリバン | ~ 98km | 7,231,000km | 1997: ブレット・J・グラッドマン他 | |
XX | ステファノー | ~ 20km | 8,004,000km | 1999:ジョン・J・カヴェラース他 | |
XXI | トリンキュロー | ~ 10km | 8,504,000km | 2001:マシュー・J・ホルマン他 | |
XVII | シコラクス | ~ 190km | 12,179,000km | 1997:ブレット・J・グラッドマン他 | |
XXIII | マーガレット | ~ 11km | 14,345,000km | 2003:スコット・S・シェパード他 | |
XVIII | プロスペロー | ~ 30km | 16,256,000km | 1999:ジョン・J・カヴェラース他 | |
XIX | セティボス | ~ 30km | 17,418,000km | 1999:ジョン・J・カヴェラース他 | |
XXIV | ファーディナンド | ~ 12km | 20,901,000km | 2001:マシュー・J・ホルマン他 |
天王星の環(リング)
(天王星の環と衛星 wikipedia)
天王星は、他のいくつかの惑星と同じように、周囲にリングを持っています。これまでに13本が確認されていますが、か細く暗いもので、地球からの観測では、リングを確認することはできません。リングを構成している直径1mくらいの氷の粒は、放射線によって表面が黒く変色してしまい、太陽光をほとんど反射しないのです。
(ウイリアム・ハーシェル wikipedia)
ウイリアム・ハーシェルは、1789年2月22日にかすかな赤いリングをスケッチに残したとされていますが、他の天文学者の支持が得られず、その後200年間リングは観測されませんでした。公式に天王星のリングを発見したのは、ジェームズ・L・エリオット、エドワード・W・ダナム、ダグラス・J・ミンクの3人で、1977年3月10日のことです。
(カイパー空中天文台 wikipedia)
3人はカイパー空中天文台といわれる航空機に搭載した望遠鏡で、天王星の大気を観測していました。カイパー空中天文台は、口径91.5cmの反射望遠鏡を改造した輸送機に搭載したもので、1万メートルの高度を飛行しながら、天体を観測することができます。彼らは天王星の背後を通過していく恒星の「食」を観測していたのですが、天王星を通過する前後で5回ずつごく短い時間、恒星の光が遮られる現象を発見しました。これは、天王星の周囲に光を遮る何かがあるはずです。その後の観測を経て、彼らは5本のリングがあることを確証したのです。
1978年までに、さらに4つの環を発見しました。1986年には、ボイジャー2号の写真から、さらに2つの環が発見され、2003年から2005年には、ハッブル宇宙望遠鏡の写真から、さらに外側に2つの環が発見されています。
ε環(イプシロンリング)
(天王星の内側の環。明るい外側の環はε環で、その他8つの環が見える wikipedia)
最初に発見された天王星のリングのうち、最も明るく密度が濃い部分。リングの厚さはおよそ150mと見られています。リングを構成する粒子は、直径0.2mから20mで、互いの粒子は1m〜100mの間隔で緩く集まっています。リングは非常に薄いため、真横から見ると存在がわからなくなります。εリングの内側と外側には、「羊飼い衛星」と呼ばれるコーディリアとオフィーリアが周回していて、その重力によってリングの境界が保たれています。
Outer ring system
(ハッブル宇宙望遠鏡が2003年に撮影したμ環とν環(R/2003 U1、R/2003 U2) wikiepdia)
2003年から2005年、ハッブル宇宙望遠鏡は、天王星本体の光を遮ることによって長時間の露光を行い、天王星から離れたところに広がる非常に淡いリングを発見しました。これらはOuter Ring Systemと呼ばれましたが、その後、μ(ミュー)環、ν(ニュー)環と命名されています。これで天王星のリングは13個になりました。
天王星の探査機
(ボイジャー探査機 wikipedia)
これまでに天王星を訪れた探査機は、ボイジャー2号だけである。ボイジャー1号と2号が打ち上げられた1977年は、木星、土星、天王星、海王星が同じ方向に並び、各惑星でスイングバイを行うことにより、4つの惑星すべてを訪れることができるという絶好のチャンスであった。次に同様のことが起きるのは176年後であり、この機会を逃すことはできなかった。ボイジャー2号は、1986年1月24日に天王星に到達した。天王星の軌道に乗るためにはロケットを逆噴射して減速しなければならないが、もとよりボイジャーにその燃料は積まれていない。ボイジャーに与えられた観測時間は、天王星の上空を通り過ぎる24時間だけであった。ボイジャーは、天王星の衛星を新たに10個発見した。また、天王星の環(リング)が、天王星本体よりもかなり後になってできたことがわかった。別の天体が天王星の重力に捉えられ、潮汐力で破壊されてリングになったものと考えられた。天王星に磁場があることや、衛星ミランダの激しく起伏にとんだ地形もボイジャー2号によって確認されました。
ボイジャー2号は、天王星のそばを通過した後、海王星に向かいました。現在は、太陽系外の深宇宙をめざして飛行を続けています。
天王星の探査機計画
(冥王星に向かうニュー・ホライズンズ wikipedia)
ボイジャー2号以降に、天王星の探査機は計画されていません。天王星より遠い太陽系の惑星の探査機としては、2006年に打ち上げられたニューホライズンズがあります。ニューホライズンズは、冥王星を含む太陽系外縁天体を観測する探査機です。465kgという軽量化された探査機は、ブースターを5本取り付けた強力なアトラスロケットで打ち上げられました。月の軌道をかつてない速度(約16km/秒)で通過、これに伴って、途中で切り離したロケットの下段も高速に達し、第2段は遠地点が木星付近まで達する人工惑星となって太陽の周りを回り始め、第3段は切り離された後も探査機の後を追って、冥王星の外に向かう軌道に乗りました。過去最短の所要日数で木星をスイングバイし、打ち上げから5年後の2011年3月に、天王星の軌道を越えました。とはいえ、単に軌道を越えただけで、天王星の写真を撮影したり観測したりする計画はなく、探査機は冥王星に備えて休眠状態にされていたのです。
(ニュー・ホライズンズが768,000kmの距離から撮影した冥王星 2015年7月13日撮影 wikipedia)
ニューホライズンズは、2015年7月14日に冥王星をスイングバイしながら、観測を行うことに成功。その後は、太陽系外縁天体の観測を行い、太陽系を脱出することになっています。このように木星より遠い太陽系の惑星に探査機を飛ばすためには、打ち上げから観測まで10年という長い月日が必要になります。しかも、天王星の周回軌道に乗せるとなると、推力が大きい逆噴射ロケットと多くの燃料を搭載する必要があり、探査機は巨大にならざるを得ません。土星の周回軌道に乗った探査機カッシーニは、重さ5.8トンもあります。こうなると必然的に開発費用は膨大になり、一つの国だけでは費用をまかないきれません。アメリカとヨーロッパ、ロシアなどと共同開発を考慮する必要があり、プロジェクトは難しくなります。しかし、それだけのことをして、天王星から得られることは、木星や土星の衛星を探査して得られることに比べて決して多くはなさそうです。エウロパの海やガニメデ、タイタンなど、生命の存在が期待される星を探索したほうが、人類のためには役立ちそうで、実際将来の探査機もそれらに向けて計画がされています。