ダークマターという言葉をご存知ですか?
通常の方法では見ることも触ることもできない「ダークマター」が既知物質を越える質量を持ち、銀河系を含む宇宙の構造に重要な役割を持つらしいことが分かってきました。暗黒物質と訳されることもあるダークマターは、まだ明確な存在の証拠は見つかっていませんが、その存在(質量)を前提とすると、観察された銀河団の構造が説明しやすいことから、存在の証拠と、その正体の理論的解明が進められています。宇宙の中のダークマターと銀河団の構造とのかかわりを、その探求の歴史を振り返りながら紹介します。
暗黒物質は存在するか?
ダークマター(暗黒物質)の存在が最初に提唱されたのは、約50年前、私達の銀河系の回転速度の説明に、見えない質量がないと理屈に合わないという発見からでした。その後、1980年代には、宇宙全体の様々な観測から、銀河の集団(さらに銀河集団の集まった超銀河団)の大規模な構造が発見され、宇宙の年齢と膨張から現在の状態を説明するためには、ダークエネルギー(見えない、観測できないエネルギー)とダークマターが必要だという説が提唱されました。ダークマターの正体として、未知の素粒子(当時は発見されていなかったニュートリノも含む)や、未発見のブラックール等の天体などの色々な考えが生まれました。21世紀になると、宇宙背景放射(全天からほぼ等量が観測できるマイクロ波)の観測衛星が行った観測結果により、宇宙全体の約4分の3がダークエネルギー、5分の1がダークマターで、我々が観察や、知覚が可能な物質(主に水素や酸素などの元素)は僅か4%程度と解釈出来ます。この結果が、宇宙全体の構造を説明するための理論から導かれるダークマターの量値と、ほぼ一致したため、現在は、ダークマター存在説が有力になっています。
宇宙における銀河の大規模構造
( 「超銀河の観測地図」The 2dFGRS Image Galleryより転載 )
銀河は、前述の通り、宇宙の中で特別に密集する場所があり、これらの銀河相互の距離や位置を精密に観測し、分析すると、銀河同士が銀河団を作り、銀河団同士が超銀河団を形成する複雑な構造をしていることが分かってきました。超銀河団は、1億光年にも及ぶ規模を持ち、逆に銀河がほとんど存在しない空隙も宇宙に存在します。こうした銀河の絡み合うネットワークを銀河の大規模構造と呼んでいます。このような構造が生まれるためには、宇宙誕生初期の銀河団の観測結果と併せた計算結果から、ダークマターの存在を前提にするとうまく説明できることが分かっています。
ダークマター発見の試みとその正体
ダークマターの存在可能性が提唱されてからは、その存在を確認する試みも始まりました。銀河団の観測結果からは、理論的にダークマターがA電荷を持たない、B質量がある、C存在は安定しているという3つの性質が導かれます。ダークマターとして、未発見のニュートラリーノという素粒子が候補にのぼっています。但し、現段階では、ヨーロッパのCERN等の最新大型加速器でも発見できていないことから、他の素粒子(例えばアクシオン)や光子(フォトン)の仲間ダークフォトンなどいくつかの候補が考えられています。(このため液体キセノンを使ったXMASSという検出器での実験も行われています)しかし、現段階ではダークマター、ダークエネルギーの正体はもちろん、その存在も完全に立証されたわけではありません。
宇宙の未来とダークマター
私達の宇宙の構造が解明されてきて、宇宙はこれからどうなるのかという疑問も少しずつ解明され始めています。宇宙が膨張を続けていることと、宇宙背景放射などから、宇宙の始まりが「ビッグバン」であることはほぼ定説になっています。そして、ダークマターとダークエネルギーの量とその性質は、宇宙の遥かな未来がどのような姿になるかという予測に大きな役割を果たします。そのため、大型の加速器で宇宙誕生初期の高いエネルギーを再現して、ビッグバン最初期に生まれた素粒子を発見する試みが進んでいます。恒星の一生がほぼ解明されているように、もうすぐ、宇宙の一生が分かるのかも知れません。
まとめ 銀河の構造探索が示すもの
観測された遠い銀河の位置関係などを地道に記録し、整理することからダークマターの存在が導かれました。光でさえも届くのに何十億年もかかる遠い銀河の姿から、この宇宙の構造を知る重要なヒントが見つかりました。宇宙を観察する度に新しい発見があり、発見の結果、また新しい疑問が生まれます。人類が、分からないことや無数の未知の存在を感じることが出来るのも、宇宙の持つ大きな魅力のような気がします。