今年2月に超巨大ロケット「ファルコンヘビー」の打ち上げに成功したのが、
アメリカの民間企業「スペースX」です。ファルコンヘビーと共に打ち上げられ、
宇宙を漂う赤いスポーツカーの映像は衝撃的でしたね。
この会社はロケットや宇宙船の開発〜打ち上げを業務にしていますが、
いったいどんな会社なんでしょうか。
(画:ファルコンヘビー wikipedia)
スペースXは民間宇宙ベンチャー
スペースXは、2002年にイーロン・マスク氏が創設した、
ロケットや宇宙船の開発や打ち上げといった宇宙輸送を業務としているアメリカの会社です。
スペースX社が誕生した2000年代は、「民間宇宙ベンチャー」が賑わっていた時代です。
スペースX社のイーロン・マスク氏は型破りな天才とされていて、
そのなかでスペースXは新参者であったにも関わらず、
「低コストロケット」を売りにして商業衛星のマーケットで大きいシェアを獲得していきました。
ファルコン9や先日大きなニュースとなった巨大ロケットファルコンヘビー、
ドラゴン宇宙船等を開発しています。
その費用と品質を自社が管理するために、ほとんどのコンポーネントが自社開発されています。
カリフォルニア州のホーソーンに拠点が所在していて、
ここには本社の機能・組立工場に加え、ロケット発射の際とミッションの管制を行う、
コンロトールセンターまで備えています。
完成したロケットは、工場〜射場までトレーラーに乗せられ、
トラックに引かれて道路を移動しています。
スペースX社創設の裏話
比較的に最近創立された会社ですが、
スペースX社はどのような歴史があるのでしょうか。
2002年、イーロン・マスク氏がカリフォルニア州エルセグンドでスペースX社を設立しました。
当初、イーロン・マスクの宇宙についての計画が宇宙関係者に知らされたときは、
みなうんざりという反応ばかりでした。
このようなことはこれまで何度もあったからです。
「私の頭とあなたの資金で宇宙開発を切り開きませんか?」といったエンジニアの壮大な夢に、
億万長者が何度も乗せられてきました。
ところが、そのエンジニアが億万長者の金を数年食いつぶし、
やがては道楽として飽きられて捨てられるといったケースがほとんどでした。
イーロンも、またこれとおなじだとみんなが思っていました。
しかし、イーロンの計画がこれまでと違う理由がひとつありました。
それがトム・ミューラーという男です。
トム・ミューラー
トム・ミューラーはアイダホの生まれで、相当な変人だったそうです。
機械が好きで、子供のころから時計などの修理をしていました。
そしてロケットに興味を持ち、通販キットから自分で1から小型ロケットを作るようになっていきます。
やがて各地の国際イベントにも登場するようになります。
大学卒業後はヒューズ・エアクラフトで人工衛星製造を担当していました。
その後、アマチュアロケット作りの工房に出入りしていたミューラーは、
ある日曜日にそこで黒いトレンチコートに身を包んだ、
まるで殺し屋のような男と出会いました。
それがイーロン・マスクだったのです。
マスクはロケットについての質問を途切れることなく続けました。
会話は何時間も続き、こうして2人の天才が組むことになります。
すでにマスクは優秀なエンジニアチームを作っていて、
ミューラーは新しい低コストのロケットのコストや性能を検討していきます。
当時、巨大ロケットではなく低価格衛星の市場ならマスクたちでも参入できました。
今後増加する小型搭載物にはマスクたちのロケットが最適でもありました。
2002年の4月から、イーロン・マスクは一般向け宇宙PRに見切りをつけ、
民間の宇宙ベンチャー企業の設立に専念します。
ミューラーらの優秀なスタッフに加え、
ボーイングから航空宇宙エンジニアであるクリス・トンプソンを引き抜いて、
「会社を起こしたい。賛成ならば共にやってほしい」と宣言しました。
そして2002年6月、航空宇宙の中心地のロサンゼルスの郊外にあった古い倉庫を拠点として、
スペースXは誕生しました。
スペースX社ではスタッフが自前でエンジンを作ります。
高い品質かつ低コストのエンジンで、組み立てのプロセスを見直すにより、
どこよりも速い・安いロケット製造をする方針でした。
スペースX社の設立は、ロケットビジネスに対してのアメリカの新しい挑戦という意味もありました。
マスクは、宇宙産業はこれまで50年ほど全然進歩していないと感じていました。
航空宇宙会社の競争はないも同然で、たいていは最高性能の製品を高価格で作るところほとんどでした。
これは本来では普通の車で目的が達成できるのに、
打ち上げるたびベンツやフェラーリを作っているようなものでした。
これとは反対にマスクは、身につけたベンチャー的手法を生かして、
スピード経営・リーン経営でのスペースX社を目指しました。
たとえ政府から受注されようと、無駄・予算超過は許しません。
スペースXが手がけたロケットの第1号は「ファルコン1」と命名されましたが、
これは映画の「スター・ウォーズ」の、「ミレニアム・ファルコン号」にちなんでいます。
2006年、アメリカ航空宇宙局のNASAは、国際宇宙ステーションの物資補給のため、
打上げ機の設計・デモ飛行をする商業軌道輸送サービスの「COTS」を、
スペースX社と契約しました。
2010年の12月、COTSのデモ飛行ミッションを打ち上げ、
スペースX社は民間企業として世界初の「軌道に乗った宇宙機を回収すること」に成功しました。
さらにNASAは、有人型「ドラゴン宇宙船」の開発、
宇宙飛行士の商業乗員輸送開発プログラムとしてスペースX社と契約しました。
2012年、ドラゴン宇宙船を国際宇宙ステーションのISSに、
民間機としては初となるドッキングを成功し、補給物資・実験装置を届けました。
2015年には、ファルコン9ロケットの第1段が、
世界初の「衛星打ち上げロケット垂直着陸」を成功させています。
2016年は、ユナイテッド・ローンチ・アライアンス社が独占状態であった
アメリカの軍事衛星の打ち上げマーケットの参入も果たしています。
また、スペースX社は民間の火星探査・移民構想も提案しており、
2016年にその輸送システムである「インタープラネタリー・トランスポート・システム」を発表し、
早くても2020年代に開始するという目標を掲げました。
スペースX社の画期的なインターン制度
「宇宙開発に関わりたいけど、どうすればいいのかわからない」という学生の人も多いでしょう。
そんな人たちに向けて、スペースX社はすぐに宇宙開発の仕事ができるインターンを求めています。
しかし、もちろん厳しい難関が待ち受けています。
スペースX社も、元々はイーロン・マスク氏が世界中の頭脳を集めて創立した会社です。
その会社が、学生のための実践的インターンシップである
「スペースXユニバーシティ・プログラム」という制度を用意しました。
会社のインターンといっても、
スペースXのインターンはコーヒー入れやコピー取りといったことではなく、
社員と同じ仕事を、チームの一員となってすることになります。
学生インターンは春・夏・秋のいずれかで最低12週間、
アメリカに7カ所あるスペースX事業所で働くことになります。
スペースXが求めている「スキル・経験」は、
コミュニケーション能力とマイクロソフト・オフィスを使えるくらいの中級程のパソコンの知識、
他のインターンシップ・仕事をしての経験というものです。
スペースXのインターンの選考は徹底しています。
募集職種はインターネットに詳しく挙げられていて、
まず書類審査に受かった人は面接の連絡がきます。
応募件数は膨大のため、落ちた人には連絡がありません。
電話での面接を数回した後、テストまたはプロジェクト的な問題が与えられることがあります。
共通しているのは、「挑戦のしがいと、責任のあるプロジェクトを与えられて、
会社の事業に直接関われる」ことです。その仕事とは、
コンピュータープログラミング・政府との打ち上げの交渉・宇宙船設計等、多岐にわたります。
スペースXでのインターン経験から社員になった人も多いそうです。
スペースX社の創設秘話などでした
アメリカの民間ロケット開発企業、スペースX社についてでした。
この会社はとにかく「低コスト」を目指しているんですね。
これまでのロケット開発は高性能で高価というものがほとんどだったため、
まさにロケット開発において革新的だったのではないでしょうか。