火星に人間が住むということはSF小説などでこれまでよく書かれてきた話でしたが、
それが現在は現実になりつつあるようです。
おなじみのNASAはもちろん、ESAなどのそのほかの宇宙開発機関や民間の企業まで、
火星調査の計画をしているのです。
人間は火星に住むとして、まずはそこに「基地」が必要になるでしょう。
では、火星の基地に必要なものはなんでしょうか?
この記事の目次
火星に人が住むには問題が山積みです
火星に人間が住むときには、まず地表に基地などの居住区を建設しなければなりませんが、
そのためにはまず、火星についての知識をもっと深めなければならないでしょう。
火星の大気は地球の大気の約100分の1であり、これは地球の海抜30キロメートルに当たります。
さらに火星の大気の約95パーセントが二酸化炭素のため、酸素はほぼないと同じでしょう。
火星に人間が住むためには、まずどのように呼吸するかが問題です。
地球では当たり前のようにできる、
この生存にとって基本中の基本のようなことすらできないのが火星なのです。
また、火星は気温差が非常に大きいという点があります。
人間が住むということを考えると、この点も問題になりますね。
火星の赤道近くでは30度ほどですが、
極近くではなんとマイナス140度という気温のため、これでは到底人間は住めません。
また、大気が薄いために、人間が火星で活動するとすれば、死に至るほどの「宇宙放射線」
を受けることになります。
オゾン層もないので地表には紫外線が強く降り注いでいるため
有人の火星調査では放射線被爆が重要な問題として専門家から指摘されています。
さらに、土の中にはに人間の甲状態(重要なホルモンを作る臓器)機能を低下させる
「過塩素酸塩」が含まれていて、これも問題になるでしょう。
火星に基地を作るということは、
このような条件をすべて対処した上で設計する必要があります。
NASAの酸素製造器「MOXIE」は成功するか?
(Kenn Brown/Mondolithic Studios)
ではこのような問題に対する人間の試みを紹介してみましょう。
地球の植物は、二酸化炭素から酸素を生成していることでおなじみです。
NASAの2020年に計画されている火星探査車のミッションでは、
植物が酸素を生成している過程を再現する「MOXIE」という装置が搭載される予定です。
「MOXIE」は火星の大気にある二酸化炭素を集めて、
電気分解によってこれを一酸化炭素と酸素に分解します。
このミッションで「MOXIE」が機能すると分かれば、
火星でも酸素が作れて、地球に帰還するロケット燃料の液体酸素も作り出せるという可能性もあります。
これは「本来は地球から持っていくものを火星にあるもので作り出す技術」という、
宇宙開発にとって大切な思想を踏まえている計画です。
火星で酸素ができるとすれば、あとは十分な水をどうするかという点になります。
2006年からNASAの「マーズ・リコネッサンス・オービター」は
火星を高解像度カメラの「HiRISE」によって撮影を続けていますが、
この「HiRISE」が撮影した画像では、火星の奇妙なプロセスが判明しています。
火星は冬に二酸化炭素でできた霜が見れますが、
これが液体のように流れ、溝状の地形「ガリー」を刻んでいるようです。
これはつまり、水の作用で生み出された地形ではないかということです。
専門家は、火星でこのような水が流れた跡をいくつも見つけたとしています。
ただし、火星で純粋な飲み水を作り出すにはまだ多くの過程が必要になります。
小型の原子力発電システム「Kilopower」
60年代〜70年代でこれまで宇宙飛行士が月に滞在した日数は、連続で3日以上はありませんでした。
火星に人間が長い間住むことになる場合は、
地球上でも同じように電力等のパワーが必要になるでしょう。
さらに、火星の厳しい寒さや砂嵐、
乏しい太陽の光にも耐久力がある電力システムでなければなりません。
(KiloPower Project/wikipedia)
NASAは火星の基地用として「Kilopower」という名前の小型の原子力発電システムを開発しており、
この初期テストもアメリカのネバダ州において先日成功させています。
テストは1ヶ月に及び、宇宙でのロボット探査のエネルギー提供を想定し、
エネルギー省・ネバダ国家安全保障施設において開始されています。
「Kilopower」は小さいサイズのウラン235を燃料に使ったミニサイズの原子炉です。
これは、なんとたった1基で2世帯分の平均的消費電力を
約10年間分まかなえる電力を提供できる能力を持っているとNASAは語っています。
アメリカのトランプ大統領は、月にふたたび宇宙飛行士を送るとしていますが、
NASAの技術者はこの小型原子炉が月を含めた厳しい環境においても使える可能性があると語ります。
火星で必要なものは火星で作る
火星の基地は、有人と無人輸送機のミッションを交互に繰り返して拡大していくことになるでしょう。
組立部品が火星へ次々に送られ、インフラが拡大されます。
NASAのラングレー研究所ではこのような計画が検討されています。
最重要原則としては上記の「地球から資源を送るのではなく、
火星の資源を利用する」という事です。
まず、2人の人間が火星の地表に小型の住居を設置して、
燃料や水、食料保管の貯蔵庫を作ります。
このうち燃料・水は地表にある氷や大気から採取する予定です。
廃水も食物を作るための栽培に使います。
ここから火星基地が地球から独立を目指すための新技術の試験場となります。
燃料・酸化剤・生命維持装置・住居等、
宇宙の旅に必要な多くの製品を火星で作ることが可能になるかもしれません。
目標としては、「火星の地表で一台の探査車を作り上げること」としています。
プラスチックは火星の資源から調達して、
金属は火星への到着で不要になったものを使います。
ここであの「3Dプリンター」が登場します。
その力は国際宇宙ステーションですでに実証済みだそうです。
これによって地上の製品をロケットで基地に届けるより時間が大幅に短縮できます。
国際宇宙ステーションで製品を作れるのなら火星でも作れるかもしれないと希望を持たれています。
火星に基地を造ることは現在でも可能?
火星に基地を作るには、もちろん「建築物」が必要になります。
日本火星協会の村川恭介理事長は、
現時点でも火星に基地を建設することは可能と語っています。
地球における建築家には、土木建築分野から電気・空調・音響・各種材料・色彩など、
非常に広範囲の知識が求められています。
宇宙において建築をする「宇宙建築家」も当然同じですが、
単に建築物の知識以外にも、酸素の量・資材の輸送手段やロケットの燃料について等、
さらに膨大な知識が必要となります。
惑星・衛星に基地を置く場合に必要なのは、
どのような工程で基地の設置していくのかという全体計画を決めたシナリオです。
その昔、宇宙開発のグループがアメリカ政府に提案した月面に作る基地の計画案では、
どれも全体計画の予定がありました。
月・火星に作る基地は、地球から資材の運搬などを何回もしなければなりません。
完成させるまでには何が必要となるのかを緻密な計画で考察することも、宇宙建築家に求められます。
惑星の基地構築で問題になるのは「放射線対策」や直径数mm以下という微小な「隕石対策」です。
このような微小な隕石が大気に無数に飛んでいて、宇宙服が破れることもあります。
このため、居住する建造物を土・コンクリートで覆ったり、
溶岩が通った後にできるトンネルのような空間に居住することが考えられます。
厚さ1mの土で覆えば、放射線・微小隕石も防げるとされていますが、
大掛かりな工事が必要になるのが問題です。地球ならブルドーザーのような重機が使えますが、
火星で覆土工事をするならこのような重機に近い機能がある機材も運ぶ必要があります。
現在、もし惑星・衛星に住むとすれば、土の下ということになりますが、
軽量で薄厚な防護材などが今後開発されれば、状況も変わるとされています。
技術の進歩が新しい時代を切り開いてきた
火星の基地建設についての諸問題についてでした。
有史以来、技術の進化をきっかけにして未知の土地へと乗り込んでいく人が現れて、
行動を起こしてきました。
コロンブスの新大陸への航海は、
「羅針盤」という技術が生まれたことで可能になったともいえるでしょう。
火星に探査機が飛ぶ時代、
さまざまな困難があるにもかかわらず火星に向かう人たちが現れるのも不思議ではないでしょう。
まさに、現代のコロンブスという感じですね!