宇宙雑学

【追悼】ホーキング博士にまつわる逸話

2018年6月12日

 

「車椅子の物理学者」で世界的に有名な人物、

スティーヴン・ホーキング氏が今年3月14日、76歳で亡くなられました。

 

「天才」と称されていた博士でしたが、

普通の人には難しい宇宙論をわかりやすく解説してくれるサイエンスライターでもありました。

今回はホーキング氏の業績や豆知識、著作や伝記映画についてご紹介してみましょう。

(画:スティーヴン・ホーキング wikipedia)

 

車椅子の天才物理学者

(画:スティーヴン・ホーキング wikipedia)

 

ホーキング博士といえば、「車椅子の天才物理学者」として知られています。

 

1960年代、ホーキング氏が学生の頃、筋萎縮性側索硬化症「ALS」を発症したそうです。

これは発症から5年ほどで死亡する病気と考えられていましたが、

ホーキング氏の場合は病気で進行が途中で弱まることで以後50年以上にもわたって研究を続けました。

 

2016年ではにロシアの大富豪のサポートを受けてアルファケンタウリまで小型探査機を送るという

「スタージェット計画」を発表していて、生涯宇宙に対して情熱を持ち続けていました。

 

近年では意思を人に伝えるために「重度障害者用意思伝達装置」を使用していて、

会話は「コンピュータプログラムの合成音声」で行っていました。

 

 

一般人にも有名なホーキング博士の業績

(画:スティーヴン・ホーキング wikipedia)

 

ここでホーキング博士の業績についてみていきましょう。

 

1960年代にホーキング博士はロジャー・ペンローズと共に特異点定理を提唱し、これが

「ペンローズ・ホーキングの特異点定理」と呼ばれています。

 

これは簡単に言えば、「空間のエネルギーが正などの物理的状況では、

一般相対性理論が破綻する密度または特異点が存在する」ということです。

 

ブラックホールには特異点があるとされていますが、

事象の地平線内側にあるので因果律が破綻しても外側への影響はありません。

 

この特異点定理はその存在についてだけが述べられ、

それがどんな形でどこにあるのかは述べられていません。

 

事象の地平線外部にある裸の特異点があれば厄介であることから、

ペンローズは裸の特異点はないと予想しましたが、真偽は不明で、

シミュレーションでは特殊な状況では現れるという説もあります。

 

相対性理論が示した特異点は、古典論のなかだけのことで、

量子力学的効果ある領域では相対性理論が破綻するとされており、

量子効果を入れた特異点は、ペンローズ・ホーキングの特異点からは範囲外になります。

 

相対論と量子論を合わせた理論が「量子重力理論」といい、

これが量子効果を含めた特異点を説明すると考えられています。

この量子重力理論はもちろん今たくさんの理論物理学者が検討しています。

 

ホーキング博士といえば、

宇宙にあるというブラックホールの研究をしていたことが有名です。

彼はまだブラックホールが1つも見つかっていなかったころの

1960年代からこの物体の研究をしていました。

 

1972年、プリンストン大の大学院生ベッケンシュタインが、

ブラックホールはエントロピーを持つのではという博士論文を発表しました。

それならばブラックホールには温度があり、光を放つことになります。

 

最初はこの考えを否定しようとしたホーキング博士ですが、

考えを改め一般相対性理論〜量子力学を結びつけた「量子重力論」を提示、

ここから量子効果でブラックホールから粒子が逃げるという「ホーキング放射」

というものを提唱しました。

 

古典的物理学では、ブラックホールの重力には光さえ逃れられないと考えられていましたが、

量子力学では理論的に逆のことも起こり得ます。

 

従来の「誰も逃れることができない」

ブラックホールが「脱走することができる牢獄」、

質量を失い完全に消えてしまうこともある実体になるのです。

 

この理論はブラックホールに存在する情報が、ブラックホール消滅時に消えるということを示し、

これは宇宙の情報量は常に保存されるという原則に反しています。

 

このことは何十年も議論されていて、相対性理論・量子力学とは理論では一致しても、

実験による検証が欠けていたためです。

 

ブラックホールから放出される熱的放射を、「ホーキング放射」と言います。

これは現在でも直接検出することが不可能というほど、希少できわめて弱い信号です。

 

そのため実験の場では光の波ではない音の波を使い、

「ボーズ=アインシュタイン凝縮」をブラックホールとして使うことで

「重力の井戸」を作るというアイデアができました。

 

この「音のブラックホール」のためにボーズ=アインシュタイン凝縮では、

絶対零度のような温度にまで冷却された「ルビジウム原子」が使用されますが、

最近この方法から、テクニオン・イスラエル工科大学のスタインハウアー氏が、

実験室のブラックホールから何かが出ていることを明らかにしました。

 

これはある種の音波ですが、音よりも速い速度を持って移動しています。

 

ロンドン・インペリアル・カレッジのトビー・ワイズマン氏は、

「得られたのはホーキング氏の仮説の裏付けですが、本物に近いシステムであるため、

本物のブラックホールで新しいことを知ったわけではありません」と述べています。

 

実際にもしもこの発見が確かとなれば、

ホーキング博士に新しい賞が加わる確かな証拠を手にしているかもしれません。

 

また、ホーキング博士が提唱した仮説には「時間順序保護仮説」というものがあります。

これは簡単にいえばタイムトラブベルを否定する仮設です。

 

過去に行くことができる「閉じた時間線」が存在には、

場のエネルギーは無限大でなくてはならないからです。

 

物理学は「因果律」という基本原則があります。

タイムマシンはこの因果律に反するので、

因果律を守るために自然の法則があるという考えです。

 

未来へ向かうタイムトラベルというのは原理として可能になります。

光のようなスピードで飛ぶロケットにで宇宙に出発します。これで地球に戻って来たとき、

「ウラシマ効果」によって地球の時間では未来になっています。

しかし、このタイムトラベルは過去には戻れません。

 

未来へ向かうタイムトラベルは因果律に反さないので、

時間順序保護仮説にも反さないということになります。

 

 

知られざるホーキング博士の豆知識

 

ホーキング博士のあまり知られていない豆知識をご紹介しましょう。

 

なんと、若いのホーキング氏は頭がそれほど良くなかったそうです。

学問的に優秀なところはなかったのですが、

時計などの中古品から計算機を作り「アインシュタイン」と呼ばれていたこともあって、

後に科学に目覚めて非凡な才を発揮していきます。

 

特殊な病気に罹ったホーキング博士は、

「安楽死」に賛成していたということをご存知でしょうか。

大きな痛みをもつ人は、死を選択する権利があるとしていて、

これは自らの経験に基づいて語られている言葉なのかもしれません。

 

ただし、安楽死は過ちだと考えていて、

「どんなに人生がひどくてもできることはいつもあり、生きていれば希望がある」ともしています。

 

また、ホーキング博士はエイリアン・宇宙人の存在を信じていました。

科学者で頭が良い人なら宇宙人の存在を

あまり信じていないのではというイメージがありますが、これは意外ですよね?

 

また、人間がその地球外生命体と接触することには否定的で、

これまでの人間の歴史を見れば大惨事になるので会うべきではないとしています。

 

人類は宇宙に飛び出さない限り1000年も持たないとしていて、

人類が宇宙に向かうことを理想としていました。

 

 

ホーキング博士は優れたサイエンスライターでもあった

 

ホーキング博士が書いたおすすめの本を紹介します。

上記のように、ホーキング氏は非常に難しい研究をしていた人ですが、

自身の研究を噛み砕いた内容にして一般人でも読むことができる本を書ける人でもありました。

 

「ホーキング、宇宙を語る—ビッグバンからブラックホールまで 」は、

ホーキング博士の代表的な一冊です。

 

この本はホーキング博士が一般読者に向けて

「時間と空間」についてわかりやすく書いた本です。

 

宇宙についての疑問〜解決まで書かれていて、前書きでも述べているように、

いかに普通の読者に難しい理論を理解してもらえるかということをひとつの目的としています。

 

その数字や数式は一般読者でもわかるものが多く、

難しい内容でも、絵や写真があるので理解を助けてくれます。

 

これまでの定説からは違った新しい視点の宇宙像、

その結論までの成り行きが、11の章で語られます。

 

全世界での発行部数は1000万部、

日本は110万部以上のベストセラーになったこの1冊は、物理学の初心者に最適です。

 

私もこの前この本を読んでみましたが、

たしかにホーキング博士のような難しい研究をしている人が書いた本とは

思えないようなわかりやすさが感じられました。

とはいえ、一般人にはやはり難しいものがありましたが。

 

日本では比較的最近の2010年に発売された「ホーキング、宇宙と人間を語る」は、

3000年以上も人々が追求してきた宇宙・人類の起源・歴史を紐解いている本です。

 

神話古代までさかのぼって、人間の「なぜ?」を探っていき、

宇宙や生命の謎にホーキング博士の理論から挑戦する過程が語られます。

 

時折ユーモアもあって、読む人を飽きさせない工夫もされています。

 

 

ホーキング博士がモデルになった映画

 

2014年には、ホーキング博士の伝記映画「博士と彼女のセオリー」が公開され、

大きな反響を呼びました。

 

第87回アカデミー賞で5部門にノミネートされて、

ホーキング博士を演じたエディ・レッドメインが主演男優賞を受賞しています。

 

興行収入的にも成功し、2015年2月までに北アメリカでは約3,400万ドル、

世界で7,000万ドルという興行収入となり、総額で1億ドルを突破しました。

 

ストーリーは、1960年代に物理学を専攻していたホーキングは、

同じ大学のジェーン・ワイルドと恋人になりますが、

病気によって倒れ、医者からあと2年の命と宣告されます。

二人は結婚して子供が生まれますが、ホーキングは車椅子に乗るようになります。

 

その後ホーキングは看護師のエレインと、

ジェーンは聖歌隊のピアノ教師ジョナサンと親しくなり、

ジェーンはホーキングと別れてジョナサンと結婚します。

 

「ホーキング、宇宙を語る—ビッグバンからブラックホールまで」

がベストセラーになって有名となったホーキングは、

エリザベス女王にジェーンと招かれ、

女王の庭ではふたりの成長した子供たちが遊んでいるという、

伝記映画でもありラブストーリーでもある映画です。

 

主演のレッドメインは、ホーキング博士のインタビュー動画を見ながら

博士を研究することにに半年を費やしたそうです。

 

監督ジェームズ・マーシュは「彼のタスクは容易ではなかった。

単に身体障害を表現するのではなく、病の進行を表現しながら、

知的な活動が病気に影響していないことも表現しなければならないから」と語っています。

 

ホーキング博士はこの映画に好意的で、

博士自身が使っていた音声データを提供してくれたそうです。

 

 

まだ読んでいない人はぜひ

 

ホーキング博士についてでした。これまで名前だけは知っていたという人も、

「車椅子の天才博士」として有名なホーキング博士の著作や伝記映画を

一度ご覧になってみてはいかがでしょうか?

 

宇宙や物理学について興味のある人なら、

ホーキング博士の本は比較的わかりやすく書かれているので必読です!

 

たとえ難しくても、チャレンジすることが大事ですよね。

 

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