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「TESS」とは?NASAが今年4月に打ち上げた衛星を分かりやすく解説

2018年6月12日

 

今年2018年4月18日、アメリカ航空宇宙局のNASAが「TESS」という衛星を宇宙に打ち上げました。

どのような目的のためにNASAはこの衛星を打ち上げたのでしょうか?

 

地球人なら誰しもが一度は考えるのが

「宇宙のどこかには地球に似た惑星があるのではないか」という問いではないでしょうか。

これはその疑問の答えとなるきっかけが生まれるかもしれない「宇宙望遠鏡」なのです。

(画:TESSを搭載したファルコン9ロケットが打ち上がるシーン)

 

宇宙望遠鏡「TESS」の概要


NASAの宇宙望遠鏡「TESS」が4月18日、

アメリカのフロリダ州にあるケープカナベラル空軍基地から

スペースX社のファルコン9ロケットで打ち上げられました。

 

TESSは直径1.2m・全長1.5mという大きさで、太陽電池パドルを展開した時の翼長は3.7m、

質量は362kgというもので、これは衛星では小型のものであり、

意外にも「兄」であるケプラー宇宙望遠鏡よりも半分以上の大きさです。

 

打ち上げ成功から約1時間した後に、TESSは無事太陽電池パネルを展開しています。

 

TESSはこれから数週間をかけて、その軌道を細長い楕円形に変更していきます。

 

軌道が月に届くほど楕円になったら、月の重力を使って軌道調整して、

高度が約11万km〜約37万kmという、地球を13.7日で周回する楕円軌道に入ります。

その後は搭載機器の機能確認・動作試験等を実施して、いよいよ本格的探査を開始します。

 

TESSははTransiting Exoplanet Survey Satelliteの略称で、

日本語では「トランジット系外惑星探索衛星」といいます。

 

これはNASAの「エクスプローラー計画」のなかの宇宙望遠鏡で、

NASAやマサチューセッツ工科大学がネットで有名なGoogleの基金サポートによって設計されました。

 

「エクスプローラー計画」というのは、人工衛星や宇宙探査機計画についてで、

最新の宇宙技術を活かして太陽物理学・宇宙物理学等において

先駆的となる科学観測をすることを目的にしています。

 

というわけでこの「TESS」も、

地球を周回しつつ太陽系の近傍に存在している明るい恒星の周りにある惑星を探すことにより、

生命の存在を探すために適している系外惑星の目録を作ろうという計画があります。

 

系外惑星を探査する衛星では、同じくNASAの「系外惑星探査衛星ケプラー」が有名です。

 

この衛星は2009年に打ち上げられてから、すでになんと2600以上の系外惑星を見つけていて、

地球と似ている岩石型惑星で水が存在する環境のいわゆる

「ハビタブル・ゾーン」中にあるとされるものも30個かあるとされています。

 

NASAの科学者によると、

今回の「TESS」は「系外惑星探査衛星ケプラー」はまったく同じミッションではないとしています。

 

TESSを打ち上げる理由はまず、ケプラーの燃料が枯渇し始めていて、

数ヵ月後には活動が停止される予定があります。

歴史的発見を続けた形外惑星探査を終わらせることは、関係者にとって好ましくないからです。

 

また、ケプラーがまだ活動できるとしても、探査する調査機は多いほうが良いこともあり、

さらにTESSは系外惑星を大まかに調べることより、

ある特定の惑星を探すといった目的を持っています。

 

TESSが探すある特定の惑星とは、「地球以上〜海王星以下の大きさの惑星」のことだそうです。

これは太陽系にはひとつもなく、詳細が不明とされているからです。

 

TESSが探査する惑星や、その探査方法について

 

TESSの惑星の調査はケプラーと同じで、

惑星が恒星を通り過ぎるときに恒星が放つ光が暗くなることを観測する「トランジット法」です。

この暗くなる現象では、惑星の位置だけでなくその直径・公転の周期まで予測できるそうです。

 

また、ケプラーは宇宙のほぼ一角のみの観測でしたが、

TESSでは全天観測を可能にするために合計67メガピクセルという4台の広角望遠鏡に

CCDイメージセンサ検出器によって恒星群を最低でも約1ヶ月ほど観測していく予定です。

 

各フィールドに最大で1万個もあるという恒星のデータが、

2週間ずつのペースで地球へと送信されます。

露出時間が2時間のフルフレーム画像も地上に送られて、

ガンマ線バースト等の予期しない現象の探索に使われます。

 

また、TESSの軌道は近地点高度や遠地点高度が「ヴァン・アレン帯(地球周辺にある放射線帯)」

より上空にあるので、電子機器等への悪影響も防げます。

 

衛星に入る熱量もほとんど一定になるので、急な温度の変化に弱いカメラ機器に好都合です。

約2年間の計画の内、最初の一年は南天、残りの一年は北天を調査します。

 

TESSはケプラーより約400倍以上という広い範囲である、

全天の約85%におよぶ領域を探査することになります。

 

今まで全天を調査するのはリスクが大きかったのですが、

ケプラーの発見によって形外惑星が多く見つかったため、

全天観測に乗り出したといういきさつがあります。

 

「地球以上〜海王星以下の大きさの惑星」を探す大きな目的は、

生命が存在できそうな太陽系外惑星を見つけるためです。

 

もちろん生命は地球の環境に近いからといって誕生するわけではなく、

私たちの想像をはるかに越えるあらゆる環境においても存在できる可能性があります。

 

ただ、まずは対象を絞ってなじみのある地球の環境に近い、

安定的な恒星を周る温暖な岩石タイプの惑星を探すことにしているのです。

 

TESSが特に調査する恒星は、「M型矮星」という赤い星です。

 

これは銀河系で最も多い恒星で、太陽より小さく暗いのですが、

この星を周回して水があるくらいのちょうどいい気温の惑星は、

その恒星から近い軌道を回っているとして、数カ月間の期間で見つけられると推測しています。

 

 

生存に適した惑星を探す

 

TESSが見つける惑星は観測に適した場所にあって、

地表・海・大気などから、生命の兆候が見つかる可能性もあるようです。

 

ケプラーが見つけた惑星のほとんどは、とても遠い暗い恒星を周回していて、

観測に向いていない惑星でしたが、TESSがターゲットとするのは太陽系から近くて明るい星で、

視野には肉眼で見ることができるすべての星以外にも、最低でも数十万個という星が含まれます。

 

科学者はそこからさらに詳しい観測に適した惑星を探すことができるのです。

 

たとえば、地球から約30光年〜300光年以内という比較的近くにあって、

恒星の光によって大気が明るい惑星です。

 

大気の成分や膨張の幅を推測する手がかりになるのが、

恒星をその惑星が通り過ぎるときの背後からの恒星の光です。

これは必ずその惑星の大気を貫くからです。

 

ターゲットの星が明るければ分光観測をすることが可能で、

スペクトル中の原子・分子が放射している光である「輝線」や、

特定の波長の吸収である「吸収線」から、その惑星の質量・密度・大気成分を知ることができます。

 

惑星に水といった生命に重要な分子が存在していることがわかれば、

生命が存在する環境についての手がかりになります。

 

関係者は「TESSが見つける惑星は、今後の数十年間にわたる研究対象になるでしょう。

系外惑星研究の新しい時代の到来です」と語っています。

 

しかし、このような現象を非常に遠くから観測するには非常に高精度な望遠鏡が必要になります。

ハッブル宇宙望遠鏡の後継機ともされているジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠は、

打ち上げが大幅に遅れています。

 

そのため、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠が打ち上げられる前まで、

ハッブル宇宙望遠鏡やスピッツァー宇宙望遠鏡のような望遠鏡を使い、

TESSが見つけた惑星の質量を調べ、そこから密度・組成を推定、

地球タイプの岩石惑星、海王星タイプのガス惑星の境目を見極めていきます。

 

 

系外惑星で地球に似た惑星はあるのでしょうか

 

NASAが近頃打ち上げたトランジット系外惑星探索衛星、宇宙望遠鏡「TESS」についてでした。

TESSによって系外惑星研究の新時代が訪れるということで、どんな惑星が見つかるのか楽しみですね。

 

宇宙のどこかに地球のような惑星が見つかるかどうかは、TESSではわからないかもしれません。

しかし、多くの望遠鏡・探査機と協力したTESSの成果を受けた後継機では、

いつかその答えが見つかるかもしれません。

 

それは何十年も先かもしれませんが、意外に早くなる可能性もあるかもしれません。

 

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