最近の宇宙開発で話題になっているのがイーロン・マスク氏の民間企業「スペースx」ですが、
このスペースxのロケットは、常に打ち上げに成功していたわけではありません。
先日はロケットの打ち上げに失敗し、爆発してしまうという悲劇がありました。
今回はこのスペースxのロケットの爆発についてです。
2016年の「ファルコン9」爆発事故
2016年、アメリカ東部時間9月1日の朝、
フロリダ州はケープカナベラルの空軍基地において、
打ち上げを2日後に控えていたスペースX社のロケット「ファルコン9」
が爆発するという大事件が発生しました。
ロケットは完全に大破・その先端に積まれていた「アモス6」
というイスラエルの人工衛星も損失しています。
2016年9月1日の午前9時ごろ、ケープカナベラル空軍基地・第40複合発射施設で
爆発が起こり、数キロはなれた地点でも黒煙が確認されており、
稲妻のような激しい音が響いたとしています。
アメリカ空軍はこの爆発で一般市民に危害はないと声明を出し、
スペースxも発射台の異常でロケットとペイロードが爆発したが
負傷者は出ていないというコメントを出しました。
イーロン・マスク氏は、この事故がスペースX設立以来で最も難解かつ複雑な失敗であり、
最大の課題になったと語りました。
ロケットの打ち上げという行為は、常に危険が伴っています。
このスペースx社のロケットが爆発した日には、
アメリカに並ぶもう1つの大国でロケット事件が起こっています。
同じ日に、中国が「高文10号」という衛星の打ち上げに失敗しています。
これによって、「長征4号丙」ロケットが失われました。
難解な爆発の原因とは
スペースXは当初、事故から3ヶ月後の11月中に打ち上げを再開するとしていたものの、
結局は先に延ばされて年明けを迎えます。
2017年の1月2日にスペースXが爆発の調査の結果、
原因は「ロケット第2段の「液体酸素タンク」に搭載している、
ヘリウム入りの圧力容器の3つのうちのひとつが破損したこと」であったと発表しました。
このファルコン9の爆発事故は、普通の人には理解が難しい原因が存在していました。
圧力容器という部品は、外側は「炭素繊維複合材」、内側が「アルミニウム」
という二重構造であり、第1段・2段のふたつに搭載されていて、
その中には極低温のヘリウムが、タンクの加圧に使用されています。
この圧力容器が液体酸素タンクに沈み込ませたように置かれていて、
つまり圧力容器と液体酸素が触れ合っている状態で、
中のヘリウムは冷却を止めれば温度が上がって膨張してしまうので、
同じように冷えた液体酸素によって冷却しているのです。
事故は、圧力容器の炭素繊維複合材とアルミニウムの隙間かアルミニウムが歪んでできた
隙間部分に推進剤の酸素が入ってたまり、
さらに炭素繊維が破れたり摩擦したことで火がついて爆発したということです。
圧力容器の中のヘリウムがまわりの液体酸素を冷やすことで「固体酸素」にしたことも考えられ、
これが引火のリスクを上げることもあるそうです。
このような炭素繊維複合材の圧力容器は金属製のものよりも軽いため、ほかのロケットでも
多くのところで使われています。液体酸素タンクに圧力容器を沈めることも、
宇宙に打ち上げるロケットでは同じ形式が採用されています。
ただし、ファルコン9では、
「炭素繊維複合材とアルミニウムの圧力容器を液体酸素に入れた」ことが独自の要素で、
ほかのロケットではこのような二重構造の場合は推進剤タンクの外か、
中に入れる場合は純粋な金属のタンクを使用しています。
炭素繊維複合材の上記のような液体酸素を固定酸素にすることで起こる引火のリスク上昇、
極低温に弱くて破裂などをする可能性、品質のムラができやすいこと、
などが爆発の原因になっていたようです。
また、ファルコン9では推進剤の温度をさらに冷やすことで密度を高め、
ヘリウムもより冷やし打ち上げの直前に急いで流し込むというものだったため、
各部分にかかる負担が大きかったという面もあるようです。
この調査結果から、スペースXでは短期的・長期的な是正措置をとることにしました。
短期的には圧力容器の置く場所を変えて、ヘリウムの温度も若干、
液体酸素が固まらないほどの変更を加えます。
ヘリウムを流し込む方法も、急速ではなくゆっくり流し込むそうです。
長期的には圧力容器のアルミニウムが歪むことを防ぐ設計を考えるそうです。
2017年の5月15日(日本時間16日)、
スペースXは「ファルコン9」ロケットの打ち上げを再開、成功させています。
ロケットの打ち上げにはリスクがつきもの
スペースXのロケットについては、これが初めてのロケットの爆発・失敗ではありませんでした。
「ファルコン9」は、スペースXが誇る大型ロケットです。
2015年6月28日に、国際宇宙ステーションに荷物を送る目的の無人ロケットの
「ファルコン9」が、打ち上げした後に爆発し、
契約していたNASAにも1億1000万ドルほどの損害が出ています。
このように、宇宙に打ち上げるロケットは、失敗のリスクが常に存在しているという事実があります。
英語で難しいことではないということを表わす言い方に
「it’s not rocket science(ロケット科学じゃない)」という言葉があるほとです。
「ロケットは非常に複雑な装置」とマサチューセッツ工科大学の研究員は語ります。
なぜなら、これには数百万という部分があって、そのすべてがミスの要因
になり得ます。計算上か構造上のミスかは判断がつきません。
新しく設計されたロケットには特に不具合が多くなります。
アメリカは164回の打ち上げ失敗の内、その101件が初期に起こっています。
これは、ソ連と宇宙開発を争っていた時代です。
最近では高い成功率で、2015年では87回中82回が成功しているものの、
失敗した場合には金銭的に大きな損害となります。
日本では2003年の「H-IIA」ロケットの打ち上げが失敗しています。
これはこれまでのものよりも経済的なロケットでしたが、軌道投入までには
至りませんでした。情報収集衛星が入っていたこのロケットの損害額は78000万ドルでした。
アメリカの無人打ち上げロケットで最大の損失額だったのは2011年の
「トーラスXL」です。気象の研究のための衛星(4億2400万ドル)が積まれていましたが、
先端にある「ノーズコーン」が分離できずに太平洋に落下しました。
ロケット打ち上げの失敗事故では、宇宙飛行士が亡くなるといった悲劇もありました。
1967年のアポロ・サターン宇宙船は、発射台において火災が発生。
NASAの宇宙飛行士が3名亡くなっています。
この悲劇により、ミッションは「アポロ1号」と名づけられました。
事故の後で、NASAはロケットの安全装置と手順を改善して、安全性では格段の進歩を遂げました。
2015年のスペースX社の事故から、
NASAのチャールズ・ボールデン長官は過去の失敗と同じように、
この事故によって宇宙飛行が非常にきびしい挑戦ということをふたたび教えられ、
私たちは成功・挫折のひとつひとつから学んでいきますと語りました。
スペースXのこれからは?
スペースX社の事故では、上記の液体酸素・ヘリウム・炭素繊維複合材の
知識がかけていたこと、事前の試験が十分ではなかった
ということが問題だったといえるでしょう。
2015年の事故もあったように、スペースX社が開発を急ぎすぎた
という面があるでしょう。
しかし、この「すばやさ」こそがスペースX社の特徴・アイデンティティであり、
これまでの重厚で長大なロケット開発から抜け出そうとする姿勢を彼らは続けるでしょう。
これを評価するのは宇宙開発の事業者です。
安くても危ないようなロケットは駄目だと判断したら、
スペースXとしても収入源を失うことになるでしょう。
スペースX社としては、これからもスピード感を維持しながらロケット開発を見直し、
打ち上げを成功させ続けていくことで信頼を取り戻さなければならないでしょう。
スペースXはそれでも挑戦するでしょう
スペースXの「ファルコン9」爆発事故についてでした。
現在は「ファルコンヘビー」の打ち上げに成功して注目を集めたスペースXですが、
過去にはこのような失敗・事故があったのですね。
宇宙開発は難しいものがありますが、それでももスペースXは挑戦し続けるでしょう。