人間が宇宙空間で活動するときになくてはならないのが「宇宙服」です。
もちろん誰もが知っているであろうこの宇宙服ですが、実際にどんなものなのかを詳しく知っている人もあまりいないかもしれません。
そこでここでは、宇宙服について詳しくみていきましょう。
宇宙服とは?
宇宙服は、宇宙空間で人間が安全に生存や活動をするために着ることになる、生命維持装置を備えている気密服です。宇宙服は大きく分けて、宇宙船の中で着る「船内服」と宇宙空間で着る「船外服」に分けられます。
宇宙服の機能は、体内的には気圧・気密性の調整、酸素の供給・二酸化炭素などの除去・体温の調整などが、体外的には動きやすさ・紫外線などからの防護・外部との通信などが求められます。宇宙服はそれのみで宇宙空間で活動する人間を守る、「小型宇宙船」のようなものものです。
これらの役割を持つため、宇宙服は上部胴体・下部胴体・グローブ・ヘルメット・冷却服・生命維持装置・通信装置等の部品で構成されています。上部胴体・下部胴体・グローブ・ヘルメットで全身をくまなく覆い、酸素を中に満たして真空の宇宙から身を守ってくれます。
宇宙服の布地は特徴的で、気密・断熱対策等のためにナイロン・ダクロン・アルミ蒸着マイラー・ゴアテックス/ノーメックス等から成る、なんと14もの層によってできています。素肌に着る「冷却下着」は、長さ84mというチューブを縫込んだもので、チューブ内に水を流し体温が上がるのを防ぎます。
生命維持装置は、呼吸で排出された二酸化炭素を取除き、酸素を供給して宇宙に熱を逃す「ラジエータ」の役割も果たしています。また、通信装置で宇宙飛行士は仲間・宇宙船・地上と話すことが可能です。そして、7時間以上もなることがある活動中に尿を排泄するため、おむつを着用しています。
もしも宇宙服なしで人間が宇宙空間に出たら?
もしも、宇宙服なしで人間が真空の宇宙空間に出てしまったらどうなるのでしょうか?
昔は「爆発する」「血が沸騰する」などといわれていましたが、これらは都市伝説でした。
地球上の気圧はおよそ1気圧ですが、これが0気圧になってもその差は1気圧。海に潜るダイバーは10気圧の気圧差があっても平気です。そのため、体内に体を破裂させるような圧力はありません。
また、血液は血管に覆われていて、心臓が停止しても圧力が一定に存在しているので沸騰はしません。ただし、それでもやはり死亡してしまうとされています。まず血液にある気体が泡になり血管を疲らせて「減圧症」になり、重大な障害が起きます。
次に血液中の酸素がなくなると意識を失います。その後の1〜2分で呼吸困難によって脳が酸素不足になり、窒息死するそうです。また、体の表面の水分が蒸発するので気化熱が奪われ凍り、体内組織・細胞も破壊されていきます。このような恐ろしい事態から身を守ってくれるのが宇宙服なんですね。
宇宙服にもロシアとアメリカで違いがある
船外活動の時は、宇宙服の内部は与圧されてその周囲は真空なので、パンパンに膨らんで動くのがかなり大変になります。1965年にソ連のアレクセイ・レオーノフが史上初の宇宙遊泳をしたとき、宇宙服が非常に膨張して船内に戻るのが困難になり、もう少しで宇宙船に帰れなくなるところでした。
NASAで船外活動に使われる宇宙服の船外活動ユニット「EMU」は、宇宙服・背中に背負った生命維持システム・TVカメラ・照明装置という構成です。
1980年代初めの有人機動ユニット「MMU」は、背中にランドセルのように背負って装着、窒素ガスを噴出することで宇宙空間の姿勢制御、移動をするすものでしたが、大きくて実用的ではないためにすぐ使われなくなりました。
それに代わって、1990年代から小型の「SAFER」という緊急時以外使わないセルフレスキュー用装置が生まれ、国際宇宙ステーションの船外活動で装着が義務づけられました。NASAの「EMU」は、運用圧力4.3psi、重量約120kg、活動時間は約7時間程度。
ロシアの「オーラン宇宙服」は運用圧力5.7psiでEMUより圧力がすこし高いので、作業性は劣るものの作業準備時間が短縮できるという点と、「EMU」は1人で装着できないのと比べ「オーラン宇宙服」は1人でも装着できる点が優れています。
1着で10億円もするらしい!?
一般的にはほとんど知られていないであろう、宇宙服の実態についてでした。真空や宇宙線などから身を守るために14もの層からできているという、やはり特殊な構成になっていました。1着で10億円もするというから、とんでもない貴重品ですね!