宇宙ロケットについてはこのサイトでも度々取り上げてきましたが、日本の宇宙ロケットを代表するのが「H-IIAロケット」です。この「H-IIAロケット」は、民間企業に移管して開発が行われています。開発しているのは、これまでにもこのロケット開発に関わってきた三菱重工です。
H-IIAロケットの概要
「H-IIAロケット」は、ちょっとどう発音すればいいかわかりにくいかもしれませんが、「エイチツーエー ロケット」と言います。しかし、新聞・テレビ等のメディアでは、「H2Aロケット」という表記で、「エイチニエーロケット」と呼ばれることが多いです。これは、宇宙航空研究開発機構のJAXAと民間企業である三菱重工が開発し、現在では三菱重工が製造と打ち上げを行っている、人工衛星打ち上げ用のロケットです。
日本の衛星打ち上げの基幹ロケットであり、宇宙に人工衛星・宇宙探査機等を輸送するために使われるている、使い捨てできるタイプのキャリア・ロケットです。H-IIAロケットは開発費約1532億円で1996年に開発がスタートし、打ち上げにかかる費用は約85億円から120億円で、開発費・打ち上げ費用共にそれまでのものより安価になりました。
H-IIAロケットを開発する民間企業
H-IIAロケットの製造・打ち上げは、JAXAから民間企業に移管していきました。H-IIロケットが純国産による開発を成功させたり、ヨーロッパなどの民間企業の衛星ロケットなどの動向から、日本ではロケットシステム(RSC)という会社が設立され、当初はこの会社がH-IIAロケットの製造・打ち上げを担当する予定でした。
しかし、ロケットシステム(RSC)はH-IIロケット5号機・8号機の打ち上げ失敗や、他国の民間宇宙ビジネスが低価格で展開していったため解散。次に名乗りを上げたのが「三菱重工」です。三菱重工は以前からH-IIAの製造をしていましたが、13号機からはH-IIAロケットの打ち上げ業務のほぼすべてを担当するようになりました。
また、上記のRSCが行っていた商業打ち上げ受注も三菱重工が行いました。これによってJAXAは打ち上げの安全管理業務だけに集中できるようになりました。このロケットの開発も移管になるため、使われる機器・構成も多少は三菱重工が選べるようになり、このため、同社では今後のH-IIAロケットの構成は「H2A202」「H2A204」の二つになると発表。
打ち上げ費用も70億円から80億円にして、商用衛星の市場で受注を得るために、打ち上げ1回の各種費用になる20億円から30億円という額をJAXAから国に求めました。三菱重工が開発と打ち上げを担当することになったので、H-IIAロケットの第1段上部には三菱重工のおなじみの社章が入ることになりました。
これは、やはり企業的に大きいでしょう。
ロケット打ち上げ事の天候の判断なども三菱重工が行いますが、最終的な打ち上げの実行と中止の判断、安全管理の業務はJAXAが行います。これは、国際法で「ロケットの打ち上げ責任は国が負う」とされているためで、他国にもしも損害を与えた場合、国の機関のJAXAが全ての責任を負うこととなっています。2009年の1月には、三菱重工が韓国の「KOMPSAT3(アリラン3号)」という人工衛星の打ち上げを受けたと発表。
2012年の5月、H-IIA 21号機によって「アリラン3号」は予定軌道に投入され、初めての商業打ち上げを成功させました。2013年の9月、三菱重工はカナダの衛星通信事業会社「テレサット社」の通信放送衛星「Telstar 12 VANTAGE」を打上げ輸送するサービスを受注。日本のロケットが商業衛星の打ち上げを受けるのは初めてで、民間企業からの受注も初めてでした。
2015年11月末、「H-IIA29号機」によってTELSTAR 12 VANTAGEを予定の軌道に投入、日本で初の純粋な商業的打ち上げを成功させました。2015年3月には、三菱重工はアラブ連邦の先端科学技術研究所の地球観測衛星「ハリーファサット」の打上げ輸送サービスを受注。2016年3月、同国の「モハメド・ビン・ラシドスペースセンター」から火星探査機「アル・アマル」の2020年に行う打ち上げ輸送を受注したと発表。
「ハリーファサット」は2018年10月末にH-IIA 40号機によって予定軌道に打ち上げ成功。2017年9月にはイギリスのインマルサット社の「Inmarsat-6のF1」の打ち上げを受注。、今年2020年打ち上げ予定となっています。
H-IIAロケット独自の特徴とは?
H-IIAロケットは、2001年の夏に試験機である1号機が打ち上げられてから、打ち上げに成功したので41回中40回となり、成功率は97.6%という驚異的な数字を誇り、これは世界でも1、2位を競うほどなんだそうです。この非常に高い成功率も受注が増加している理由ですが、もうひとつの理由は、打ち上げ予定日を決めたらそれをできずだけ変えずに、きちんとその日に打ち上げるという「時間を守れるロケット」という面です。
他のロケット会社は、打ち上げ可能な数以上を受注をする傾向があるため、ちょっとしたことによって打ち上げの時期が遅れることがありますが、三菱重工では確実な打ち上げ時期を顧客に提示しています。これは、たとえば火星探査機などの場合、打ち上げ時期が限られているため、時期を逃すと次の打ち上げは約2年後ということも起こります。
衛星通信会社の衛星でも、サービスを開始する時期が遅れることはしたくないという事情もあります。このような点によって、H-IIAロケットは徐々に世界で信頼を得ているようです。
「時間をきっちり守る」というのは、たとえば海外の電車の進行時刻はわりとルーズですが、日本ではきっちりとしているので、外国の人が日本の電車に乗ると驚くという話を聞きますが、この辺がいかにも日本らしいですね。今年2020年2月9日には、41号機が打ち上げられ、成功しました。また、今年2020年には後継機となる「H3ロケット」が運用スタートになる予定でしたが、H-IIAロケットは継続して打ち上げられ、2023年に退役する予定となっています。
後継機「H3」が取り組む課題
H-IIAロケットの後継機である「H3」では、H-IIAの打ち上げ数を倍にする予定で、H-IIAよりもコストを半分にすることが第一の目標だそうです。しかし、それに合わせて打ち上げ価格を半額にすれば、打ち上げる回を倍にしないと利益が得られないことになります。これにはやはりアメリカの低コストなロケットの存在があるからでしょう。H3は最低でもH-IIAの倍は打ち上げなければ商品としては成功しないということになります。
それには、さらに商業衛星の受注が大事になります。H3が世界のより進んだ民間ロケットと競うためには、周辺施設の改善など、顧客が喜ぶ環境を整えることが重要です。また、ロケットを再使用して低コスト化する開発、さらに上記の時間を守る「オンタイム打ち上げ率」といった、日本らしくて独自の付加価値を維持できるかもキーになるでしょう。
民間企業はやはり合理化が得意!
日本の代表的な宇宙ロケット「H-IIAロケット」についてでした。このように、国が行っていたロケット製造を民間企業に移管すると、やはり低コスト化・合理化などにつながりますよね。また、「時間を守れるロケット」というのも、いかにも日本らしくて特徴的なので、このへんを強みにできるといいですね。