「あかつき」とは、日本のJAXAの金星探査機です。「あかつき」が2010年5月21日に打ち上げられて今年の5月でちょうど十年ですね。この「あかつき」、打ち上げ後の宇宙で金星に向かうまでに紆余曲折がありましたが、現在は無事に金星を調査しています。探査機「あかつき」の概要と、現在の状態についてみていきましょう。
「あかつき」が金星にたどり着くまで
「あかつき」とは、日本のJAXA(宇宙航空研究開発機構)とISAS(宇宙科学研究所)の金星探査機です。種子島宇宙センターから2010年5月21日に無事打ち上げられ、 同年12月には金星に着く予定でしたが、途中でメインエンジンが故障。金星付近の軌道で周回するだけになり、この計画は失敗したとされていました。
しかし、その後にメインエンジンより推力が5分の1ほどの姿勢制御エンジンを使用し、当初の計画とは違ったプランによって進めることになります。その後、2015年12月9日に金星の周回軌道に到達したことが確認されました。2016年4月4日には再度の軌道修正を行い、これによって観測期間が2000日に延長されます。以後、「あかつき」は金星を周回して多くの写真を撮影していました。
さまざまな金星の情報を明らかにした「あかつき」
「あかつき」の現在はどうなっているんでしょうか。「あかつき」は、観測波長の違ういくつかのカメラを搭載していて、金星の大気を観測します。この成果が、惑星の気象現象を深く理解する手助けになると期待されています。
2019年1月9日に、イギリス国科学誌「Nature Communications」では、神戸大学の理学研究科の研究グループが、「あかつき」の観測により、金星を覆っている雲に巨大な筋状の構造があることを発見し、大規模数値シミュレーションでこの構造のメカニズムが判明したことが掲載されました。同研究グループは「あかつき」の赤外線カメラで観測された分厚い雲に筋状の構造を発見し、スーパーコンピュータの「地球シミュレータ」によって数値シミュレーションを行いました。それにより、巨大な筋状の構造を再現し、形成メカニズムも明らかにしました。
この筋状の構造は、地球では温帯低気圧・移動性高気圧・ジェット気流をもたらしている大気現象の「傾圧不安定」が、金星を覆っている雲でも発生しているのではないかということです。この研究は、「あかつき」の金星探査と「地球シミュレータ」での大規模なシミュレーションの組み合わせという世界初の成果で、金星気象学が新しいステージに達したということを示す貴重なものとなりました。
「スーパーローテンション」の仕組みとは?
2019年4月、これらの5台のカメラの2台が故障しましたが、残った3台が作動していて、これまでに撮影した金星の画像は未知のもので、2020年4月には、大きな目的だった「スーパーローテーション」の謎についての論文が「サイエンス誌」に掲載されました。スーパーローテーションとは金星の大気の上層で、4日で金星を一周している強い風のことで金星の自転速度以上の風ということから命名されました。
風速はなんと100m/sで、これは金星の自転の60倍以上の速度です。この現象については多くの理論があって、金星における最大の謎のひとつとされていました。「サイエンス誌」の論文によるとスーパーローテーションは、「金星の昼夜の温度差で発生する熱波」が高速化を生んでいるそうです。
北海道大等のチームは、「あかつき」にある紫外線カメラによる撮影で金星の雲を解析し、赤外線カメラで温度データも参照にすることでスーパーローテーションの仕組みを推定しました。結果、太陽の熱による昼夜の温度の差で大気運動が勢いを増し、これがスーパーローテーションの高速化の原因のひとつであることが明らかになったそうです。
今年の12月まで金星を調査します
2019年12月までに「あかつき」は金星を約130周して、6.4金星年分というデータを得ています。これまで3万枚以上の中間赤外カメラによる撮影、1万6000枚以上の紫外イメージャによる撮影をしていて、このうち中間赤外カメラの成果では、世界初の「金星全領域の雲の動きの可視化」に成功しました。今後「あかつき」は今年2020年度の末まで運用が続く予定です。
金星研究が新しいステージに
JAXAの金星探査機「あかつき」と現在の研究成果についてでした。これまでの金星気象学では、観測データやシミュレーションの空間解像度が低いため、深い研究は難しいものがありました。しかし、「あかつき」の観測と地球シミュレータのような高解像度のシミュレーションを使って、金星気象学を細かい水平構造も研究できる新しい段階に上がったといえるでしょう。今後も、「あかつき」により金星気象の謎が判明することが期待されています。