2020年2月は、宇宙探査史に残る月などと言われています。それはなぜか、というと、異なる3つの国の火星探査機が、この月に火星に到着したからです!
これはすごいことですね。前回は、おなじみNASAの火星探査機「Perseverance(パーサヴィアランス)」が火星の大地に無事着陸したニュースを紹介しましたが、パーサヴィアランスよりも先の2月10日に、UAEの火星探査機「HOPE」が火星の周回軌道に到着していたのです!
今回はこのUAEの火星探査機「HOPE」が、打ち上げから火星に到着するまでの話です。
UAEの火星探査機『HOPE』の概要
「HOPE」とは、UAE(アラブ首長国連邦)で初の火星探査機です。UAEでは「al-Amal」と呼ばれていて、これはやはり「希望」の意味があるそうです。UAEの構成国の一つであるドバイ首長国の宇宙機関「MBRSC」が、UAE建国50周年を記念して、2021年に火星へ到達することを目指して計画と開発を行って、2020年7月に打ち上げられました。
ミッション全体は、「Emirates Mars Mission(エミレーツ・マーズ・ミッション)」と呼ばれます。アルミニウム・ハニカム構造の六角柱状の機体で、全長2.9メートル・幅2.37メートル・重量1.5トン。600ワット発電出力の展開式太陽電池パドルを3枚装備しています。機体は、総じてオーソドックスな宇宙船の探査機らしい、堅実な仕様です。
意外にも日本から打ち上げられていた!
ところで、この「HOPE」、なんと打ち上げは日本の種子島宇宙センターから打ち上げられたことをご存じでしょうか?
2020年の4月20日、「HOPE」は日本へ輸送され、同年7月20日、日本時間の午前6時58分に鹿児島県にある種子島宇宙センターから、三菱重工業のH-IIAロケットによって打ち上げられました。その後、約半年の火星への飛行の末、今年2021年2月10日、火星の周回軌道に投入しました。
9日・10日には、管制しているUAEのムハンマド・ビン・ラシード宇宙センターがYouTube等で中継され、UAEだけでなくアラビア語圏で盛り上がっていました。ちなみに、火星の周回軌道に探査機を投入したのは、アラブ諸国では初になります。1971年12月2日に独立してから今年で50周年を迎えたUAEでは、このニュースに沸きました。
主要都市であるドバイの高さ世界一というビル「ブルジュ・ハリファ」では、ロケット打ち上げの動画などが映し出されたり、火星ということでビル全体が赤くライトアップしたりと、盛大な盛り上がりとなっています。
HOPEが火星で調べるのは「大気」
これからHOPEは観測機器のチェック・試験等を行いながら、3月には観測をするための軌道に移ります。4月から本格的に火星の観測をスタートさせ、9月ごろにはデータの公開や共有を行う予定。今後約2年間、高解像度カメラ・分光計によって火星の大気や温度などを調べ、火星の大気がどのようになくなったのかという謎の手がかりを探していくそうです。
科学者は、火星にも昔は厚い大気があって気候も温暖、海もあるというような、ちょうど地球のような惑星だったのではと考えています。しかし、今の火星は大気は薄く、とても人間が住めそうもない荒涼とした世界です。過去の火星には分厚い大気があったのか、その場合はその大気がどのように失われたか、生命はいたか、ということが、火星の大きな謎です。
そこで、この謎の手がかりを得るため、HOPEは、火星の大気・気候、大気の相互作用などを、3種類の機器で調べます。火星の一年間の大気の変化、つまり季節で大気・気候がどのように変わるのかを調査する予定で、世界中の惑星科学者たちが注目しています。プロジェクト・ディレクターのオムラン・シャラフ氏は「火星の大気の全体像を調査したい」と語り、「調べたデータは、日本を含めて世界中の科学界に提供する予定。科学界全体に影響を与えたい」とも述べています。
100年後には火星に都市を作る!?
UAEの火星探査機「HOPE」が、2021年2月10日に火星の周回軌道に投入したという話でした。打ち上げは日本の種子島宇宙センターから、三菱重工業のH-IIAロケットによって打ち上げられたというのはちょっと意外でしたね。UAEはさらに、なんと2117年までに火星に都市を建設する計画の、「マーズ2117(Mars 2117)」という、大変壮大な構想があるそうです。
これはUAEの「国家宇宙計画(National Space Programme)」の中で定められ、HOPEはその第一歩とされています。しかし、現在のところUAEはこの100年の間に宇宙計画をどのように行うかについてはまだ明らかにしていません。なんとも壮大な計画ですが、今から約100年後には、人間がどのように宇宙に進出しているのでしょうか?