宇宙エレベーター 宇宙雑学

宇宙エレベーターはいつできる?構想の歴史や建設に向けての課題

2017年4月8日

(画像引用元:宇宙エレベーター wikipedia)

 

「宇宙に行ってみたい・・」という人が6割近くいる(JAXA調査)と言われていますが、実際に宇宙へ行くには、今のところ、宇宙飛行士になるか、数十億円の費用を払う以外に方法はありません。高額のロケット打ち上げ費用が大きな壁となっています。この問題を解決する有力な手段として、「宇宙エレベーター」の構想が現実味を帯びてきました。特別な訓練不要で、海外旅行程度の費用負担で宇宙への旅が出来る宇宙エレベーターについてまとめました。

 

宇宙エレベーター構想の歴史

(画像引用元:K・E・ツィオルコフスキー wikipedia)

 

地球の静止軌道まで、ケーブル等をつないで人や物を運ぶというアイデアを最初に提唱したのは、ロシア人のK・E・ツィオルコフスキーでした。彼は、静止軌道の概念など、ユニークなアイデアを多く生み出したロシアの科学者です。彼が1885年に発表した「地球と宇宙に関する幻想」の中で、天に届く塔と宇宙列車の構想を描きましたが、「自重で崩壊するので、素材的には建設不可能」との注釈もつけていました。1960年代以降には、ロシアのアルツィターノフの宇宙列車や、アメリカでの宇宙エレベーター研究、軌道塔のアイデア等、更に実現性の高い研究が次々に発表されています。

 

SF作家の夢

 

 

静止軌道衛星を予言したことで知られるSF作家アーサー・C・クラークは、「楽園の泉」というSFの中で、ずばり宇宙エレベーターの建設をテーマとしました。1979年に発表されたこの作品から、宇宙エレベーターの概念が一般に広まり、実質的には彼こそ宇宙エレベーターの発明者という人もいます。執筆時点では、後ほどご紹介するカーボンナノファイバーの様な強力な材料などは未発明で、巨大な地表部の塔建設など、未だ現実性にはやや欠ける部分もありましたが、イマジネーション豊かな秀作でした。ここで、紹介されたケーブル伸長方法や、地表固定方法などの問題は現在の研究にも通じる視点からの考察でした。この後も、宇宙エレベーター建設や利用を扱ったSF作品は続きましたが、クラークの作品中で、利用素材が「発明された」という時点よりずっと早く、1991年に、日本の飯島澄男氏(NEC研究員)が「カーボンナノチューブ」を発見し、宇宙エレベーターの実現性が一気に高まりました。

 

宇宙エレベーターとはどういうもの?

(画像元:宇宙エレベーター 概念図。大林組の宇宙エレベーター建設構想

 

カーボンナノチューブ紹介の前に、宇宙エレベーターとはどんなものか説明します。気象衛星などの人工衛星が、軌道上で地球の周囲を回り続けられるのは、衛星が周回する速度で生まれる遠心力と、地球重力とが均衡している(落ちてこないし、離れてもいかない)状態だからです。例えば、ISS(国際宇宙ステーション)の地表からの高度は約400キロで、1日に地球を約16周します。(速度は28千km/時)一方、赤道上空にある静止衛星の高度は36000kmで、ISSの約4倍の速度で、ちょうど1日で地球を1周するため、地表から見ると静止しているように見えます。宇宙エレベーターを作る一般的な方法は、この静止衛星と同じ速度・軌道の「軌道駅(静止軌道ステーション)」を建造し、ここから地上へのテザー(ワイヤー又は帯状の紐)を地上まで降ろします。一方で、テザーの自重で駅ごと落ちてこないよう、軌道駅から地球と反対方向にもテザーを延伸し、常に重心が一定位置(軌道駅)にある様に保ち、最終的に降ろすテザーは地表に届き、エレベーターの軌道が完成します。この宇宙側に伸ばしたテザーには、位置安定用の錘(カウンターウェイト)を固定します。錘の質量によっては、全長が10万キロも必要となり、構造物全体の重さを支える強度の材料がないことが、建設のネックと考えられていました。

 

カーボンナノチューブ

(画像引用元:カーボンナノチューブ wikipedia)

 

こうした問題を解決できそうな新素材が、カーボンナノチューブです。その強度は鉄の百倍以上(引張り強度)で、硬さもダイヤモンドの2倍なのに、重さはアルミの半分という、まさに宇宙エレベーターの為に出現したかのような驚異の物質です。カーボンナノチューブの分子構造は、炭素原子(カーボン)が、蜂の巣型の網目(ナノメートル単位)で連なり、筒状(チューブ)に形成されます。融点が高く(約3000度)、化学的、温度的に非常に安定でありながら、曲げ伸ばしに強く、柔軟性があるなど、利点の多い素材です。カーボンナノチューブの実用化に関しては、製造品質の均質性確保や宇宙ケーブル用の長大なチューブを形成する方法、生産効率、製造コストなど、現段階では様々な問題があります。しかし、カーボンナノチューブには、上記以外にも、ユニークで応用範囲の広い電気特性を持ち、環境への負荷が少ないなど、実に多くの利点があります。そのため、燃料電池や半導体からディスプレイや電球など身近な製品まで、今後、多様な用途が期待されていて多方面で実用化研究が進んでおり、現在、生産の問題点も少しずつ解決に向かっています。宇宙エレベーターを研究するNASA先端技術研究所(NIAC)の報告書の中で、ロス・アラモス国立研究所のエドワーズ博士は、全長10万キロのカーボンナノチューブで作られたケーブルが、自重に耐えられることを、実証実験も行って確認しています。(大林組の宇宙エレベーター計画では、全長9万6千キロで構想されています)

 

宇宙エレベーターの建設

(軌道エレベータの基部の想像図 wikipedia)

 

エドワーズ博士の構想によると、宇宙エレベーター建設には、静止軌道上から、バランスを取りながら双方向にケーブルを繰り出して、地球側は海面に建設する地表駅(アースポート)まで降ろします。

 

(軌道エレベータの基部の想像図 wikipedia)

 

今度は、出来上がったケーブルを使ってクルーザーと呼ばれる資材運搬車で建設資材を運んで、軌道駅等の施設を作ってゆき、クルーザーは、最終的には旅客運搬機にもなります。隕石や宇宙線等からの安全性や、膨大な建設コスト、環境負荷など未解決の問題は数多くありますが、基本的な構想はその規模の割には複雑ではなく、大林組が、宇宙エレベーターを2050年までに完成するという建設構想を発表しています。

 

宇宙エレベーターで描く未来

 

宇宙エレベーターが出来た場合、その利用目的は、宇宙旅行だけではありません。現在、地球から宇宙に出る手段は、使い捨て部分が大半のロケットです。日本の最新鋭ロケット「H2A」は、総コストは欧米より低いのですが、それでも1回の打ち上げには100億円以上かかります。一般的に、ロケットが1キロの重さを一番低い軌道に運ぶだけでも100万円以上かかるようです。これに対し、宇宙エレベーターは、色々な試算があるのですが、建設費用は(実用ケーブルなど未開発分野の研究費を除いても)少なくとも数兆円かかると考えられていますが、完成後の輸送料金は、1キロ当たり2~3万円、国際航空運賃の4倍程度ではないかという計算がされています。そうなれば、静止軌道や中間駅での滞在が可能になり、地球観望や無重力体験、宇宙遊泳など、観光の魅力は十分です。しかし、産業利用として、軌道上に太陽光発電施設を建設する基地など、宇宙開発のベースとして、色々な利用ができます。さらに、既にISSで始まっている無重力環境での特殊な工業製品等の大量生産移行や、資材や空間的な制約等で不可能だった科学実験や資源探査も可能になります。そして、宇宙エレベーターは、宇宙への道を速やかに開きます。月や惑星、太陽系外への宇宙探査旅行は、錘(アンカー)として設置されるい軌道に作られる基地から、地上からのロケットとは比べものにならない簡単な構造の宇宙船が低コストで出発できるでしょう。火星探査や外惑星への有人探査は、今世紀中に可能になります。推進システムの改良が進めば、さらに遠くへの探査計画も予定される筈です。宇宙エレベーターは、衛星軌道への道であると同時に、宇宙への扉となるでしょう。

 

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