宇宙船の推進装置であるソーラーセイル「太陽帆」は20世紀初頭に起想されましたが、これまでは「SFで描かれるような技術」という認識でした。しかし、2010年7月9日に日本の宇宙開発機関JAXAがソーラーセイルの機能を一部搭載した「IKAROS」を打ち上げ、史上初という「太陽帆航行」が成功しました!
ということで、ここでは最新のソーラーセイル事情を紹介してみましょう。
ソーラーセイルとは?
ソーラーセイルとは「太陽帆」という意味で、太陽等の恒星から出ている光・イオンなどを、巨大な帆にに付けた薄膜鏡で反射することでこれを推力にするという技術です。普通、ソーラーセイルというのは「太陽の太陽風で推進している」というイメージがありますが、そうではなく、「光子の反射によってできる反作用」のことです。
太陽帆に太陽光が反射すると、膜に光の入射角と逆の力が発生し、この力はセイル面積・光圧力に比例します。発せられた光が球面状に広がることで単位面積当たりの受けられる光子数が減るので、光圧力は光源の距離の2乗に反比例します。船舶の帆と違って流体力学的な揚力は発生しないので、推進力は反射する光の圧力だけになります。
日本のJAXAが史上初の光子加速を実証
ソーラーセイルといっても、ほんの最近まではまるで夢物語の話でした。普通の人なら、この言葉すらあまり聞いたことがなかったですよね。宇宙船の推力として太陽帆を実際に使うには、非常に軽量・広い面積をカバーできる薄膜鏡が必要だったためです。
初期はアルミニウムでできた薄膜が素材になりましたが、強度不足で、宇宙空間で非常に大きな帆を壊さずに広げる技術も開発が困難でした。それが21世紀になって「炭素繊維」などの研究開発があり、太陽帆に使えるような強度・軽さを備えた薄膜を作成することが可能になってきました。研究はこれまで世界各国が行っていましたが、アメリカのNASAをはじめとして目立った成果を挙げることはできませんでした。
しかし、20010年7月、日本のJAXAがやってくれました!
日本の宇宙航空研究開発機構・JAXAでは、「宇宙科学研究所」でソーラーセイルの研究が行われていました。2004年8月に直径10m・厚さ7.5μmのポリイミドフィルムでできた大型薄膜を宇宙空間に広げることに成功しました。
2010年5月、ソーラー電力セイル実証機「IKAROS」が宇宙に打ち上げられ、世界初の「ソーラーセイルでの光子加速」に成功、12月8日には「金星フライバイ」に成功する等、大きな成果を挙げました。
ソーラー電力セイル実証機「IKAROS」の打ち上げ経緯
世界初のソーラーセイル加速を実現した「IKAROS」の打ち上げ経緯についてです。
ソーラーセイルはそれ単体では効力が薄いということで「イカロス」では帆の一部に薄い膜状の太陽電池を貼り付けることで大電力発電も同時に行いました。この電力を使うことで、高性能イオンエンジンが駆動するハイブリッド推進となり、効率的なミッションが可能になります。
JAXAは2010年5月21日、実証機「IKAROS」をH-IIAロケット17号機に金星探査機「あかつき」と相乗りの形で打ち上げました。厚さ7.5μmという「ポリイミド樹脂膜」にアルミを蒸着させ、約200平方メートルの1割に薄膜太陽電池が貼られています。
本体を「X」の形に畳んでいて、打ち上げした後に一時的に機体を高速回転させてできる遠心力を使って帆を展開し、その後はゆっくり回転させ形を維持させます。
2010年6月3日にソーラーセイルを広げ、6月10日に地球から離れた約770万kmの距離で、セイルの展張とセイルにある薄膜太陽電池から発電したことを確認しました。
7月から「光子加速実証フェーズ」に移行、7月9日にはついに光子加速をしていることが確認されました。12月8日に金星から80,800kmという地点を通過して、金星スイングバイも成功させました。このようなことに成功したのは世界初になります!
ソーラーセイル宇宙船「ライトセイル2号」
そしてこのたび、ソーラーセイル宇宙船である「ライトセイル2号」が、地球周回軌道で実証の実験のために打ち上げられました。
「ライトセイル2号」は、スペースXのロケットである「ファルコンヘビー」に搭載され、2019年6月24日地球軌道上に打ち上がりました。
これは、NASAで20年近くソーラーセイルの実現を目指してきた「惑星協会」の計画です。実証機「コスモス1号」は、2001年に打ち上げ予定でしたが不具合により中止。2005年の打ち上げもロケットの不具合により失敗しています。
その後「ライトセイルA」を開発、2015年には同機の打ち上げ後に太陽帆を展開させました。プロジェクト費用は700万ドルで、その一部は2015年に「キックスターター」というクラウドファンディングで4万人から資金を集めたそうです。ライトセイル2号は1年間地球周回軌道上でこの技術の実験をする予定です。
ソーラーセイル宇宙船は普通の宇宙船よりも速度は遅いものの、太陽などの恒星から光を受け加速を続けることでずば抜けた速度になる場合もあるとされ、深宇宙探査に役立つという期待があります。
これは、古今東西の科学者たちが持っていた根源的な疑問を解く鍵になるかもしれません。それは「人間はどこから来たのか?」「宇宙にいるのは人間だけなのか?」という疑問です。この鍵になるかもしれないミッションは小惑星・火星・エウロパのミッションです。
このミッションでは、まちがいなくソーラーセイルの力が必要になると関係者は考えているようです。
JAXAが世界に先駆けていた!
最新の太陽帆で進む「ソーラーセイル宇宙船」についてでした。いやあ、この分野でNASAより先にJAXAがソーラーセイル実証機の打ち上げに成功していたんですね。
現在は一般的にあまり知られていない宇宙船ですが、今後はメジャーな存在になっていくでしょう。
参考:
・太陽光で進むソーラーセイル宇宙船「ライトセイル2号」、地球周回軌道で実証実験へ