火星には水があるのかないのかについて長年論争がありましたが、
近頃火星の地表1メートルから2メートルというわずかな深さに氷の層が発見されました。
これは火星の地質の歴史についての新しい情報というだけでなく、
火星のテラフォーミング、移住計画についても貴重な情報になる可能性があります。
火星に発見された氷について
アメリカの地質研究所のコリン・ダンダス氏は、この氷の層の発見によって、
火星の氷研究についての新しい窓が開いたとしています。
火星の研究者は昔から火星の地中に氷があるのではという推測をたてていました。
NASAの探査機「マーズ・オデッセイ」は2002年、火星の周回軌道から火星表面を調べて、
高緯度の浅い場所に氷が存在することのデータを得ました。
2005年、イギリスのBBCは火星の北極のクレーターに氷の湖を発見したと報じました。
ESA・欧州宇宙機関のマーズ・エクスプレス探査機が
誇る高解像度ステレオカメラによって撮影されたクレーターの画像は、
北緯70.5度・東経103度にあり火星北極地帯の大半をであるボレアリス平野のクレーターの底に、
氷が広がっている様子をはっきりと捉えていました。
このクレーターは、直径35km・深さ約2kmという大きさです。
BBCの報道はすこし誇張があったものの、ESAの発表もこれが湖という主張はしていません。
火星の他の場所に数多く見られるのと同じく、
暗い円板状の氷は高度約200mの砂丘の頂上に、
薄い層となっている霜がかたまってクレーターの下部に広がったものです。
そのなかでもこの氷が珍しいのは、多少の霜が一年の間残るくらい、
高緯度にあるということだけです。
火星は赤道近くは日中で20℃以上ということもあって、
高緯度だけで氷が存在できるとされ、
液体の水が存在できるのもヘラス盆地等の限られた場所のみとされています。
さらに2008年、火星の北極近くに着陸した探査機「フェニックス」が地面を掘り、
氷を発見しています。
2016年末には、火星探査機の「マーズ・リコネッサンス・オービター」
が火星の中緯度に埋もれた氷床を発見しています。
この氷床は、北アメリカにある5大湖のひとつ、
スペリオル湖とほぼ同じ量の水が含まれていることが判明したものの、
地下にある氷の層の範囲にその入手可能性などは、今までよくわかっていなかったのです。
問題は土に石、またはその他の地表の物質が探査において障害になっていたことです。
探査機が掘削できるのは地表からほんの数センチ。
レーダーなら地中の深くに何があるかということをを調べることだけはできますが、
ちょうどその中間という、地表から約20メートルの位置の氷の組成というもは、
これまでは解析されていませんでした。
ただ、、地表は「侵食」という作用があります。
レーダー・掘削ロボットでなくても、侵食によってむき出しになっている場所さえ見つければ、
火星の地下層やそこに含まれている氷も調べることができます。
近頃の「サイエンス」誌の論文によれば、
上記のコリン・ダンダス氏らは多目的探査機「マーズ・リコネッサンス・オービター」に
搭載した高解像度カメラ「HiRISE」を使って、そうした火星の8つの地点を調査し、
表面から1メートルから2メートルの氷の層を発見しました。
そこに含まれる氷は、火星全体を1メートル以上という厚さで覆いつくせるほどの量なんだそうです。
氷床は地下1メートル辺りから、最大で地下100メートル以上という深さにまで広がっています。
調査チームでは地表付近にある氷は露出している
面積よりもさらに広い範囲に及ぶのではと推測しています。
その氷には不純物等は混じっていないとされています。
NASAは宇宙で人類が生きるためには
現地資源の活用「In-Situ Resource Utilization=ISRU」が大前提であるという考えを示しています。
このISRU計画で重要になるのは、氷が地表からどれくらいの深さであるのか、
純粋な氷・土が混ざったところの割合です。
氷の純度が高くて地表の付近にある場合は、利用する労力が少なくいことになります。
今回の氷の発見はこれまでの調査より、固体〜気体に変化(昇華)することで、
水蒸気になって大気中にちょっとずつ放出されているとされています。
昇華の過程で異物の大きな塊・堆積物が取り除かれますが、細かなものは残るようです。
数百万年前、火星が現在の自転軸より急角度で傾いていた時代では、
中緯度で周期的な大雪が降っていたのではと考えられていました。
今回のこの氷の層の発見がこの説の裏付けになるとダンダス氏は語ります。
火星の水が将来宇宙飛行士の飲み水に!?
火星に訪れた多くの探査機が、火星に氷・水が存在する証拠をいくつも発見しています。
デンマークのコペンハーゲン大学にあるニールス・ボーア研究所は、
火星のレーダー観測によるデータを10年遡って、
氷の厚み・その動きを調べた結果、氷河は大きな氷塊で流れていることを調査しました。
火星の気圧は低く、そのために水はすぐ蒸発して水蒸気になってしまいますが、
氷が宇宙空間に蒸発してしまわずにいられたのは、
ぶ厚い塵の層に守られていたおかげではないかと考えられています。
上空から撮影された火星の水の証拠写真を見ると、淡い水のブルーが美しいですね。
アメリカのカリフォルニア工科大学、惑星科学者のベサニー・エールマン氏は、
「この画像は理論的に考えられていた火星表面下の氷を映したもので、とってもクールです。
地球と同じように火星でも氷床のコアを掘リ出して、
気候の変動についての記録を調査できるかもしれません」と語ります。
今回の氷の発見は、
将来的には火星の中緯度に着陸する宇宙飛行士たちの喉の渇きをいやしてくれるかもしれません。
火星の有人ミッションは、地中の氷などから水を取り出す予定ですが、
宇宙飛行士がその水を飲み、ほかにも水素・酸素に分解し生存に絶対必要になる
空気やロケット燃料のメタンを作ることなどもできるとされています。
火星のひとすくいの氷からは鉱物よりも水の方が多いのですが、
その氷を手に入れるために10メートルも岩を掘らなければならず、効率が悪いとされてきましたが、
地表からわずか1メートルから2メートルに氷があるなら、好都合ですね。
今後の火星有人探査のミッションを勢いづける事実になるでしょう。
これからの火星探査計画
NASAの探査機の「マーズ2020」は、地中探査レーダーが搭載されており、
現在は謎となっている火星の地層上部を調べることができます。
ESA・欧州宇宙機関の火星探査計画「エクソマーズ」も、
地表から2メートルまでの土壌を掘ることができるドリルを搭載した
探査機を2020年に打ち上げ予定です。
火星の地層を調べるもうひとつの選択肢として探査機をさらに大きい乗り物で火星の大気圏に送り、
低高度において切り離して地表へと着陸させる方法が考案されています。
着陸の衝撃により地下の数メートルまで潜れれば、探査機の付着物を分析して、
調査の結果を火星の軌道を周回している人工衛星によって地球に送ることができます。
この方法はまだ技術が足りないものの、進歩はしているようです。
科学者たちが火星の氷の貯蔵庫を特定するにはまだ時間があります。
人類が深宇宙へと足を踏み入れる前には、再び月へのミッションにも取り組むでしょう。
火星への到着は、順調に行ったスケジュールでも2030年代と見られています。
着陸する場所や滞在する期間、何が必要かは、
惑星にある資源にそれを得るためにどれほどの労力がかかるかに左右されます。
火星への旅行はまだ早いようです
火星に氷の層が発見されたというお話でした。
ただ、それでも火星旅行への荷造りはまだ早いようです。
ダンダス氏らのチームが調査した8地点は、
火星の赤道南北5度から60度の中緯度地帯でした。
今後の有人探査でも火星のミッションのほとんどで着陸地点が「緯度30度以内」
という制限があることが問題です。
赤道近くは気温が高く、氷は採掘困難な地中に位置しています。
火星に基地を置く前には、こういったことに関しても調査する必要があります。
(画:火星 wikipedia)